artkoubo MAGAZINE
artkoubo MAGAZINE

[File29] 太平洋美術会
オープンな場づくりで、研究所と展覧会に新しい感性を

2017/3/13 ※更新2022/7/7
話を聞いたメンバー。左から佐田昌治常務理事、三上久戴講師、鈴木國男講師、クロッキー教室に参加する山本志明さん
1889年(明治22年)設立の明治美術会を前身とする太平洋美術会は、国内で最も古い歴史を持つ洋画団体だ。その伝統ある組織に、いま新風が吹いている。数多くの生徒が学んだ研究所のリニューアルに加え、第113回「太平洋展」には、会員だけではなく授業で制作された生徒の作品も並ぶ予定。その意図とは何なのか? 理事と講師、生徒らに聞く。
リニューアルにかけた思い
佐田:西日暮里の諏訪神社前に位置する研究所は、1957年(昭和32年)の完成です。とくに2階の教室は、戦前の彫刻家の解体されたアトリエの木材を使い作られたもので、古かった。このたび、この教室の床を張り替えと、新たな看板の設置、そして、建物の外壁をカリフォルニアピンクに塗り替えるというリニューアルを行いました。外壁は諏訪神社の緑に映えることを意図したもので、「諏訪の森のピンクの館」をイメージしています。

目指したのは、新しい人にも入りやすい環境を作ること。また、先生にも新しい刺激を与えることです。教室の絵具まみれの床は、多くの記憶が詰まっているので、「改修しないで」との要望も多かった。しかし、現代ではアニメなどから美術の世界に入る人も多い。そんな人への間口を広げる努力は必要です。それは、伝統ある団体ゆえに求められることで、伝統とは信頼のこと。信頼を更新していくには、進化が不可欠なんです。

研究所の外観。ピンクの外壁は、おのずと人の関心を引く
入口付近の看板も一新。
アール・ヌーヴォー風の会のマークは、1903年(明治36年)開催の第2回太平洋画会展のカタログ装丁のため、中川八郎が描いたもの
油絵教室の床が張り替え。新たな歴史がここから始まる
多様性を育てる、クロッキー教室
佐田:週1回開催され、毎回15〜20人が参加する裸婦モデルのクロッキー教室も、新しい人たちの入口となっています。低価格で、来たいときに来られる気軽なこのクロッキー教室に参加したことを機に、「絵画」や「彫刻」、「版画」などのほかの教室に進む人も多いですね。
山本:2016年9月から、クロッキー教室に通っています。現在48歳ですが、20年以上前にイラストレーターを目指していたこともあり、ブランクはあったけれど、絵を描きたくなって、インターネットでここを見つけました。仕事の都合に合わせて来られるところや、歴史ある団体ゆえの落ち着いた雰囲気が、魅力的だなと感じました。
鈴木:山本さんのように、教室にはもともと絵が好きな人が集まっている。なので、方針としては極力、こちらから口を挟まず、アドバイスを求められたら相談に乗ることを心がけています。山本さんのイラストもそうですが、みなさん、背景にあるジャンルが違うので、特徴が自然に出て面白いんです。和紙の上に墨で描く人もいるんですよ。
山本:それぞれが好きなように描いているのが、僕には良かったです。若い人たちが多く集まるような予備校だと、どうしても一方向を向く指導になりがちですよね。
三上:若いときは受験対策もあって、とくに一律になりがちですよね。でも、この教室にはいろんな会派の人も参加していて、すでに自分の世界を持っている。だから、我々の考えを押し付けることはしないで、できるだけ多様性を生かそうとしているんです。
鈴木:参加者の目的は、本当にさまざま。肺を悪くされている70代の男性参加者は教室に来ることが楽しみで、酸素ボンベを引きながら通っています。
三上:ここに来れば、仲間に会える。それも動機になっているんじゃないかな。
鈴木:そうですね。その方を見ていると、人には「もっとうまくなりたい」という向上心があるんだと強く感じます。そんな思いに応える場所でありたいですね。
思い思いに制作するクロッキー教室の参加者
生徒の作品も展示 新しい「太平洋展」
佐田:5月17日から始まる第113回太平洋展では、会員の作品のほかに、洋画、彫刻、版画、染織という4つの各部について、研究所の授業で制作された作品を展示するコーナーを設けることにしました。これも今年からの試みです。背景には、さきほどのクロッキー教室と同じく、展示も一律なものにしたくないという思いがあります。
山本:展示の機会を得られることは、参加者にとっても刺激になると思います。
佐田:自分が通用すると感じられれば、グッと伸びることも多い。太平洋美術会の良いところは、あらゆる会の中でも最大級の設備を持っているけれど、組織がピラミッド型ではないところ。松本竣介や靉光、有本利夫のような作家が育ったのは、そうした自由さがあったからだと思うんです。経験のある先生や会員の作品と、若い人の新しい感性が出会ったとき、会が面白くなる。そんな場を、これからも作っていきたいです。
(取材・構成=杉原環樹)
第112回 太平洋展受賞作より
曽我雅行《ポスター2016》絵画部 損保ジャパン日本興亜美術財団賞
福田清《回想》絵画部 荒川区長賞
幸尾螢水《鳥獣雅楽曼荼羅》絵画部 太平洋美術会賞
渡辺資祐《雅びに咲く(目黒川の桜)》絵画部 太平洋美術会奨励賞
工藤みつ子《おハナちやん》彫刻部 会員秀作賞
安藤昌平《銀閣寺大雪風景》版画部 文部科学大臣賞
大場順子《タペストリー”陽炎”》染織部 会員秀作賞
公募情報
太平洋美術会
第113回 太平洋展 ※終了致しました。
  • 日程
  • 2017年5月17日(水) ~ 29日(月) ※休館日5月23日(火)
  • 会場
  • 国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)
  • 巡回
  • 福岡・大阪・名古屋・横浜・千葉
  • 種類・点数
  • 自作未発表の油彩、水彩、版画、彫刻、染織作品。
  • 各種別とも点数制限なし。
  • 作品の大きさ
  • 油彩(30号以上500号まで)、水彩(30号以上80号まで)、
  • 版画・染織は特に制限しないが壁面に耐えられる大きさとし、
  • 彫刻は美術館規定による。
  • 額装のガラスは不可(アクリルは可)。
  • なお、一般者のみ対象として、
  • 油彩・水彩・パステルなどで「20号限定サイズ作品」を募集。
  • 搬入日時
  • 2017年5月8日(月) 10:00〜15:00
  • 出品料
  • 各種別とも一部門につき2点まで一般は11,500円、
  • 会員・会友は13,500円(カラー図録代・送料含む)。
  • 会員・会友・一般とも1点増すごとに2,000円加算。
  • 「20号限定サイズ作品」も一般と全て同じ。
  • ※その他詳細は、太平洋美術会ホームページ参照。

第113回 太平洋展のリーフレット

ART公募内公募情報 https://www.artkoubo.jp/taiheiyobijutsu/
団体問合せ
当サイトに掲載されている個々の情報(文字、写真、イラスト等)は編集著作権物として著作権の対象となっています。無断で複製・転載することは、法律で禁止されております。

アート公募姉妹サイト PR