池田ヒロミ《溢れる思い》第42回現代童画展 大賞
今年で創設42年目を迎える「現代童画会」は、国内で唯一の童画の公募団体だ。画風はいたって幅広く、そこには一般的な“童画”の言葉からイメージする児童性はない。会の定義する童画とは何なのか? 副会長の糸井邦夫氏にお話を伺い、第42回現代童画会受賞作家展の様子と受賞者のコメントと共に紹介する。
童画(ナイーブアート)とは、純真な心の絵画
- 現代童画会は、イラストレーターや画家、絵本作家、造形作家などが集まり、「童画」のクオリティ向上を目的として1975年に発足された。
- 「当会の考える童画とは、ナイーブアートのことです」と語るのは、副会長の糸井邦夫氏。ナイーブアートとは、本来、正式な美術教育を受けていない作家が制作した作品を意味し、独学ゆえの自由な表現や独創性が魅力とされるが、現代童画会では、その本質を踏まえつつ、より広義な解釈を提示する。
- 「私たちは童画を“純真な心の絵画”と定義し、それをナイーブアートと捉えています。ですから当会には、絵画を学んだ人と学んだことがない人が混在しています。キャリアも、国籍も、一切問いません。仲間に望むことは、純粋に絵が好きで、それを形にしたいという深い思いがある人。それさえあれば、個性は育つものです。大切なのは感性ですから、そこを大事に伸ばしていける場でありたいと思っています」
- 現手法も油画や日本画、アクリル画といった王道だけでなく、板絵や切り絵、貼り絵、CGなど多種多様。今年の「現代童画展」では初めてミクストメディアの作品が大賞を受賞し、新風を吹き込んだ。
- 「最近はマンガ調の作品でも、絵として成り立っていれば受け入れています。絵の中でも童画は比較的時代と共に変化し、流れていくもので、流れる方がむしろ面白い。肩ひじ張らずにいろいろ試して、自分が納得できるものを作ってほしいですね」
糸井邦夫
現代童画会常任委員、日本美術家連盟会員。
武蔵野美術大学実技専修研究科(油画)修了。1976年、現代童画会初出品、以来現在まで連続出品。現代童画会大賞、毎日新聞社賞ほか受賞多数。個展、グループ展も多数開催。
本展受賞者の新作が集う「受賞作家展」
- 現代童画会では、春季展、選抜展、本展を活動の3本柱としてきたが、3年前から新たに設けているのが、本展の受賞者とその作品を紹介する「受賞作家展」だ。今年も5月初頭に銀座アートホールで開催され、大賞の池田ヒロミさん、会員作品賞の丁子紅子さんをはじめ、32名の受賞者が新作を発表した。
会長の小澤清人氏(中央)と受賞作家のみなさん
第42回受賞作家展会場(2017年5月開催)銀座アートスペース_東京・銀座
- 池田ヒロミさんの大賞受賞作『溢れる思い』は、絵筆で描いた絵や下描き、写真、和紙、布など、さまざまな素材をコンピュータに取り込み、モニター上で構成、加筆したミクストメディア作品。プリントアウトしたものに、さらに顔料やアクリル絵の具などで描き足して仕上げている。
- 「私はコンピュータを画材のひとつと捉えて使用しています。コンピュータでの制作は、自分のイメージをモニター上で自由にコントロールできるところが魅力。たまに、操作の途中で偶然にできた画像が予想外に良かったりすることがありますが、そういう時でも最初の自分のイメージや設定からブレないように気を付けています」
- 画家としてだけでなく、地元の八王子にゆかりの松姫(武田信玄の娘)をモデルにしたゆるキャラ“松姫マッピー”の作者としても活動する池田さん。『溢れる思い』にも八王子と松姫への思いが込められている。
- 「以前から夢や希望あふれる情景をテーマに描いてきましたが、最近、特に大事にしているテーマが“ふる里”です。受賞作も、私の住む八王子・高尾周辺の春の桜や山々をモチーフに、あふれる夢と希望を心に秘めて現代に生きる女性を、400年前の乱世の時代にこの地でたくましく生き抜いた松姫のイメージに重ねて表現しました」
池田ヒロミ
現代童画会委員、日本児童出版美術家連盟会員、日本色彩学会会員
1978年、現代童画会初出品。87年の初個展を皮切りに、個展、グループ展を多数開催。アメリカやドイツでも作品を発表する。広告関係(企業カレンダー・パンフレット・ポスター・金融機関通帳・宝くじ)、出版関係(教科書・雑誌イラスト・カレンダー)等で作品を多く採用されている。
第42回現代童画展 会場風(2016年11月開催)東京都美術館_東京・上野
- 会員作品賞に選ばれた『消え果てる頃に。』の作者、丁子紅子さんは、弱冠26歳。大学2年の時から現代童画会展に出品し、2年目で入会、一昨年会員になった。
- 「伯父が会長なので、小さい頃からこの会をずっと見てきました。画壇色が強い美術団体が多い中で、この会はみんなが自分の好きなもの、表現したいものをひたすら形にしている印象があったので、いつか自分が絵を描くようになったら、この会に出品しようと決めていました」
- 表現したいものは、目には見えない人の心や感情。学生時代から変わらず追求し続けているテーマだ。しかし当時の画風は今とは違い、感情のほとばしるままに描いた「自己表現の絵だった」という。今のような絵に変わったのは、大学を卒業し、オーダーメイドジュエリーの会社に就職したことがきっかけだった。
- 「相手の気持ちを汲み、要望を形にする仕事をしていくうちに、絵も見てくださる方に何か必要としてもらえるほうがいいんじゃないかと。そう思うようになってから、こういう画風になっていきました。目指しているのは、悲しく見えたり、優しく見えたり、見る人がその時々の自分の感情を乗せて自由に感じ取れる、“器のような絵”。このコンセプトでどれだけ幅を広げられるか、しばらく自分の中で探っていきたいと思っています」
丁子紅子
1991年、埼玉県生まれ。女子美術大学絵画学科日本画専攻卒業。個展2012年『to live』2014年『失う中で、刻むもの』。グループ展『INTRO3 山本冬彦が選ぶ若手作家展』など多数。現代童画会賞、上野の森美術館賞、会員作家賞など多数。現代童画会会員。
(取材・構成=杉瀬由希)
丁子紅子《消え果てる頃に。》会員作家賞
佐藤美絵《行方・遭遇》文部科学大臣賞
戸井田しづこ《羽化前夜》東京都知事賞
大塚 たか子《宇宙の慈愛につつまれてB》弥生美術館館長賞
宮沢 寛之《全ては忘却の人 波の中に》坂出市長賞
HAMU《創ゾウ》出版美術会員賞
井上 ちづこ《フランセの協奏曲》会員佳作賞
山野 晴美《茜幻想》会員佳作賞
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