理事長の加藤賢亮氏
中美選抜展 会場:ギャラリー暁(東京・銀座)
創設から70年。何物にも束縛されない自由な創作活動を通じ、個人の幸福や豊かな社会を真摯に模索し続ける中央美術協会。連綿と受け継がれる協会の精神と、そのもとに築かれた独自の気風を、活動内容やビジョンとともに紹介する。
躍動する生命と自由を謳歌し、創作のエネルギーに
- “中美”の愛称で親しまれる中央美術協会は、帝国美術学校(現武蔵野美術大学)で美術教育に従事し、中央美術学園の創設者としても知られる郡山三郎により、1952年に設立された。初代会長には児島善三郎、指導者には中川一政、岡鹿之助、清水多嘉示、野口彌太郎らが迎えられ、郡山と共に協会の礎を築いた。
- 『生命あるものだけが常に新しい。いのちの叫び、たましいのうめきがほしい。心と心のひびき合いこそ生きがいである。生命の躍動するところ、おのずから技法も様式もいきいきと誕生するであろう。そのような母体でありたい。創作の根源は自由である。一切の束縛を排して生命の躍動に歓喜しようではないか。芸術は、生命の鼓動をたかめる。そこに生命の尊厳が生まれる。生命の尊厳を知ることこそ平和の基礎である。美術によって生命の歓喜に満ちた社会をつくりたい』
- 郡山が提唱した協会の理念は今も揺ぎなく、その精神が公平で伸びやかな気風の基盤になっていると理事長の加藤賢亮氏は語る。
- 「私は中美に入って30年近く経ちますが、自由を尊重するところや家族的な雰囲気は昔から変わりません。偉ぶった人は一人もいませんし、(郡山)三郎先生自身がそういう人だったんです。封建的な会にしたくないというその想いを、歴代の代表が守り、受け継いできた。ベテランから若手まで誰に対しても公平で、親しみやすい会だと思います」
「中美」創設時のメンバー。中央が郡山三郎氏。1953年頃 中美展会場の日本橋丸善にて
郡山三郎「ふよう」油絵 第5回中美展出展作 1956年1月
本展のほか、中美らしさを象徴する
新人とベテランによる合同企画展も
- 中美の主な展覧会活動は、本展「中美展」と、企画展「受賞者展」「選抜展」「新人展&委員小品展」だ。
- 今年で71回目を迎える「中美展」は、毎年11月に上野・東京都美術館で開催され、油彩や水彩、日本画、コラージュ、ミクストメディアなど、さまざまな手法表現の作品が並ぶ。アマチュア作家でも出品しやすく、また高齢作家も体力に見合った規模の制作に取り組めるようにと、サイズには下限を設けていない。対象は平面作品のみだが、他の美術団体との掛け持ちに関しても制約がないため、他団体で別ジャンルの作品をつくりながら両輪で活動する作家など、銘々のアプローチで自らの表現を追求している。
- 「自由に、どんどんチャレンジングなことをしてほしいと思っています。一度身につけて評価されたスタイルを手放すことは難しいものですが、手放しても血肉になったものは自分の中に残るんですよ。だから、この作家は今がそのタイミングかもしれないなと思ったら、ちょっと水を向けてみたりするんです。そうして作家の成長を促すことは、会の大事な役割ですから」(加藤氏)
第70回記念中美展(2018年)ギャラリートークの様子 会場:東京都美術館(上野)
- 「受賞者展」と「選抜展」はどちらも中美展の受賞作家を対象に、描きおろし作品を紹介する。6月上旬に銀座のギャラリーで開催された「選抜展」では、第70回中美展の受賞者の中から約半数にあたる25名のバラエティに富んだ新作が展示され、来場者の目を楽しませた。企画展の中でもユニークなのが「新人展&委員小品展」だ。新人と委員が合同で開催する展覧会は美術団体では珍しく、こうした企画が持ち上がるところが中美らしさでもあるだろう。観者にとって新鮮なだけでなく、ニューフェイスとベテランが親睦を深める絶好の機会として作家たちからも好評だ。
中美選抜展 会場風景 2019年6月 会場:ギャラリー暁(東京・銀座)
誰でも利用できる無料絵画添削サービスを実施。
人と絵を成長させる“関わり”を大切に
- 中美独自の取り組みとしてもうひとつ特徴的なのが、インターネットを利用した無料の絵画添削だ。かつて老舗美術サロンで添削を担当していた経験を持つ加藤氏が、そのノウハウを活かしサービスを導入。作品画像をメールで送るか、もしくは作品の写真や出力紙を郵送すれば、所属や経験を問わず、誰でも協会の審査員から丁寧な講評を受けることができる。
- 「添削は、送られてきた作風に応じて適任者が担当します。絵を指導するというのは描くこととは別の才能なので、添削担当者にとってもいい経験なんですよ。いろいろなケースがありますが、何度かやりとりして作品をブラッシュアップしていく人が多いですね。もちろん皆さんが中美展に出品してくれたら嬉しいですが(笑)、地方の場合は美術団体の数が少ないうえにヒエラルキーが根強く存在しているところが多いので、そこからはみ出すと所属する場がなくなってしまう。そういう人たちや、諸事情で支部に入れない人にとっても、この添削サービスが役に立てばと思っています」
- ホームページやSNSで誰でも簡単に作品を発表できる今日、どこの団体にも属さず一人で制作するほうが気楽でいいという人もいるだろう。しかしそれでも人との関わりを積極的に持ってほしいと加藤氏は語る。
- 「人間が描く以上、人間が成長しないといい絵にならないと思うんです。自分の世界にこもっていては、成長は難しい。こういう場でいろいろな人から刺激を受け、客観的な視点も持ちながら描き続けていくことが、いい絵を描くことにつながるのではないでしょうか」
取材・構成 杉瀬由希
加藤 賢亮(かとう けんりょう)
- 略歴
- 1965年 神奈川県鎌倉市生まれ
- 1987年 中央美術学園に入学(91年同学卒業)
- 1989年 中央美術協会展 (89年新人賞、90年会友賞、96年安田火災美術財団奨励賞、
- 98年東京都知事賞、00年中美協会賞)
- 現在 アトリエKENRYO代表・中央美術協会理事長(事務局長兼任)
- 個展、グループ展、受賞多数
加藤賢亮「実相」F150
以下第70回記念中美展受賞作品より
「 Realm 」田口広司 中央美術協会賞
「 越後の雪椿 」對馬文夫 第70回記念賞
「 Daydream 」山口 保 文部科学大臣賞
「 錦秋の沢を登れば 」和倉義一 東京都知事賞
「 自我 」荒谷武志 損保ジャパン日本興亜美術財団賞
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