artkoubo MAGAZINE
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[File61] 汎美術協会
アンデパンダン精神の現在、そして未来

2019/12/2 ※更新2022/7/22
堀浩哉氏による作品講評会 「2019汎美秋季展」
創作と発表のベースキャンプとして多くの作家に支持される公募団体「汎美術協会」。1933年の発足からの歩みをたどると、表現の自由と平等の近代美術史の姿が浮かび上がる。事務局の中西祥司氏、大野善孝氏のお二人に、会の歴史をひも解いていただいた。
自由な表現と自由な発表の場を求めて設立
— 本日は会設立のお話をお聞きしていきます。いま、表現の自由が大きな問題になっていますが、汎美術協会(以下「汎美」)の設立時の重要なテーマでもあったそうですね。
中西:汎美は昭和8年(1933)に「新興独立美術協会」として設立されました。日本が国際連盟からの脱退を表明したのと同じ年、政治権力が政党から軍部中心の政治に切り替わっていく時代のことです。政治体制の変化と同時にさまざまな統制が行われるようになり、美術界にも大きな変化がありました。政府の美術振興策として施行された文部省美術展(文展)が帝国美術院展覧会(帝展)に名前を変え、昭和10年(1935)には美術の国家統制を強めようと、在野の美術団体の有力画家を帝展の審査員などに加えて、帝展に組み込むような動きがありしました(この帝展改組は失敗しました)。
大野:新興独立美術協会が設立する前の年、昭和7年(1932)には五・一五事件、その3年後の昭和11年(1936)には二・二六事件が起きています。挙国一致体制が美術界にも影響しようという空気のなか、自由な表現と自由な発表の場を作ることを掲げて設立されたわけで
中西:当時の美術ヒエラルキーに対して、作家は皆公平平等であるというポリシーのもと、フランスのアンデパンダン展を参考に開催概要をつくることになりました。
大野:フランスの美術家たちは、パリのサロン(官展)に対抗して1884年にはアンデパンダン展を立ち上げて、活動していました。それを参考に、公募・推薦制の無審査・無鑑査のシステムを構築し、昭和9年(1934)の第2回展を東京都美術館で開催しました。そのシステムの基本をいまの汎美も引き継いでいます。
— これは他の公募団体でもあまり例がないことですね。
大野:フランスのアンデパンダン展に触発された団体や活動の事例はいくつかありますが、無審査、無鑑査の徹底という意味では汎美は際立っていますね。私どもは公募・推薦制をとって、今までその作家がどういう作品を作ってきたかというところは見させてもらいますが、以前とどんなに違う作品であっても受け入れるとしてきました。
— 例えばこれまでの技法と変わることも起こり得ますか。
大野:はい、版画を描いていた作家が彫刻を出品してもいい。現にそういう作家がいますよ。
中西:多様な表現を受け入れるというのは、汎美の基本姿勢です。技法だけでなく、政治的なメッセージを含んでいようが、宗教的なメッセージを含んでいようが、推薦した限りは問いません。
大野:もちろん直接的な政治のアジテーションは困るわけですが、作品にその種の意図が込められていることは問題ありません。自由な表現が大前提で、なにが良くてなにが駄目かということは、なにがアートなのかという価値基準の変化にもよりますね。
中西:時代の変化の中でアートはどんどん変わっていくわけだし、それを受け入れる側の評価の仕方が変わっていくこともあるわけです。例えばマンガ展のように今までアートと呼ばれなかったものが美術館に入ってくる。そういう意味で固定された範疇でアートをとらえず、たえず変化、拡大していかないと、展覧会自体が成立しなくなるのではないかと考えています。
絵画、立体、インスタレーションなど、大小さまざまな作品が展示されている。
ステップアップと国際化
— 作品の変化という中には、作品の質の向上もあるかと思います。汎美の中での取り組みとして何か実施されていることはありますか?
中西:展示日に「作品の前で語る会」を実施し、出品者同士が自由に批評し合い、ディスカッションしています。また、美術館の行事でもありますが「ギャラリートーク」では、一般の人も参加し、作品・作家を知り、より理解するために作家とディスカッションするなど行ってきました。作家同士の切磋琢磨ですね。それに加え、昨年の秋季展から作家のクオリティアップにつながることを期待して、外部作家による講評会をはじめました。
— 客観的な批評を受けることになりますね。
中西:それぞれの作家は経験も作品のレベルもバラバラなわけです。ただ汎美としては、少しでも出品者の作品がアート作品・芸術作品としてステップアップして欲しいと考えています。そこで現代美術の作家であり、美術教育に長けた多摩美術大学名誉教授の堀浩哉先生に講評をお願いしました。一人一人の到達点、問題点を確認し、そこから一歩でも二歩でも先に進めるようなサジェスチョンをしてもらっています。今回で3回目ですが、受講者は勿論のこと、副次効果で一般の参加者も美術を分かり易く話されていて、勉強になったなど評価を頂きました。講評によって作品が変わってきた作家も結構います。
大野:汎美の基本的な考えは、ひとりひとりが独立した美術家であり、自分の作品は自分で責任を持つべきであるということです。汎美の設立時はそういう思想はっていしていたと思います。ところが会の変遷に伴い辞める人も新しく入ってくる人もいるなかで、その辺があいまいになっていたところがありました。堀先生の講評で、ハッと襟を正すというか、若手の出品者にとっては非常に大きな刺激になったと思っています。
中西:しかし、入会時に若い作家にある程度の完成度を求めるのは難しいわけです。伸びしろのある若い作家に入ってもらって、刺激を与えていく、成長してもらえる努力を我々がすることも大事じゃないかと。そういうことも気づかされました。
— 会の理念を保ったまま、足りないところを補足する試みになったのですね。
中西:もうひとつ最近のトピックとしては、大野さんが主張して出品作品のサイズの下限を定めたこともあります。2点なら30号以上、1点60号以上の作品を出品しなければいけない。それ以下の作品は出品できない、と出品規定を改定しました。
— 改定の意図はどういうものなのでしょうか。
大野:40年前は、50号を2点以上という決まりでした。100号1点出したら勘弁してやるみたいな(笑)。ところが「自由」であるなら、小さい作品でもいい作品はあるだろうという声があり、その縛りをかつて取っ払ったわけです。すると今度はそれに甘えるような作品も出てきてしまって……。
中西:大きい作品を作れる力のある人が小さい作品を作ればそれなりの作品になるけども、小さい作品しか作れない人が増えてしまい、展覧会全体のクオリティを下げることにつながってしまったのではという反省がありました。
大野:やっぱり大きい作品を描くのはそれなりにエネルギーがいるし、技術も必要です。しかも、美術館の天井はこんなにも高いじゃないですか。その壁面に自分の作品を置くとはどういうことなのかをもう一度考え直そうと、2018年の秋季展から出品規定を改定しました。
中西:今回は昨年に比べて出品者数は増えたんです。ところが出品点数が減った。しかし、会場の壁は増やしました。つまり、作品が大型化し、充実したということです。会場の雰囲気もずいぶん変わり、エネルギーを感じる、活気があるなど評価に変化が出てきました。
大野:出品規定としては今でも幅を認めているんですよ。小さい作品でも点数をまとめて一つのシリーズにすればオッケーにするとかね。作品のコンセプトを大切にしたいと考えています。ただ厳しくするだけでなく、大変苦労しています(笑)。
堀氏を交えた講評会。作品ひとつひとつにいろいろな捉え方や表現の可能性をディスカッションしている様子。
世界とつながる
— 現状を見直し、改革を進める中で、充実した作品も増え、展覧会の評価も上がってきました。これからのテーマはありますか。
中西:いろいろな魅力的イベントが必要だろうと思います。ベルギー人作家、パトリック・ジェロラが2018汎美展出品していますが、彼との会話から、ベルギーで展覧会をやるのも面白いのでないかと、現在、実施に向けて調整を進めているところです。来年(2020)には汎美ベルギー展か、交流展になるのかわからないけれども、とりあえず我々の作品をベルギーに持っていって発表しようというプランです。それから再来年はエジプト展をやろうと。その翌年にはパリ展だと。まだ具体的な企画にはなっていませんが、海外での作品の発表と展示のノウハウを蓄積することが目下の目標です。若い作家にとっても海外で作品を出品する機会はあまりないですから、良い切っ掛けになります。個人ではハードルが高くても、汎美として行なえば一人当たりの経費も下げられます。
大野:海外の作家との交流につなげていきたいです。日本の美術の状況も伝えられればと。
(中央:カラフルな小便小僧の立体作品)ベルギーの作家パトリック・ジェロラの作品
— 海外の美術家から見たら、日本の公募団体がこんなに大人数で活動していることで驚かれるかもしれないですね。
中西:日本では美術・作家がごく一部を除き、ビジネスとして生活の糧にはなっていないのが問題で、国などの予算が少ない。イギリスのテートモダンなどでは今活動している作家の作品を買ったりして美術にお金を投じている。また、入場料は無料にするなど、国が国民にアートに親しむ仕掛けをちゃんと作っている。そういう見聞も海外展をきっかけに若い世代と共有しつつ、美術運動体として何が出来るか考えていきたいですね。
— 多くの公募団体は若い人の入会が少なくなっています。そういうなかでも汎美は講評会でのステップアップや、海外との繋がりを作るなど、若い美術家にとっても意義のある団体として取り組みを続けているのが印象的です。
中西:色々な意味で、変化は伝わっているようです。例えば、入場者数が今年は増えています。昨年よりは3割増しくらいですかね。
大野:署名簿も足りなくなって、あわてて追加したり(笑)。
— 取り組みの成果が出ているということだと思います。来年の展開も楽しみです。本日もありがとうございました。
お話を伺った(左)大野善孝氏と(右)中西祥司氏
(取材・構成=竹見洋一郎)
大野善孝 Ono Yoshitaka(現事務局長 2019年~)
  • 1969年 武蔵野美術大学油絵専攻 卒業
  • 個展・グループ展で作品発表の後、1977年汎美展初出品
  • 1978年 汎美術協会会員 以後今日まで毎年出品
  • 2003年~2006年、2011年~2014年汎美術協会事務局長を務める
中西祥司 Nakanishi Shoji(前事務局長 2015-2019年)
  • 1967年 多摩美術大学 デザイン科入学
  • 1969年 美術家共闘会議の結成に参加
  • 2009年 サロン・ド・ユニゾン展(世田谷美術館)2012年まで毎年出品
  • 2010年より汎美展に出品(国立新美術館)、
  •     以後秋季展(東京都美術館)、小品展を含め毎回出品
  • 2010年 日仏現代国際美術展(大森ベルポート/アトリウム)
  • 2015年 パリ 春の現代美術展に出品(Galerie Etienne de Causans/Paris)
  • 2015年より汎美術協会事務局長を務める
  • 2018年 パリ個展(パリ、エチネンヌ・ドゥ・コーザン・ギャラリー)
公募情報
汎美術協会
汎美展2020 ※終了致しました。
  • 日程
  • 2020年3月4日(水)−16日(月)休館日3月10日(火)
  • 会場
  • 国立新美術館
  • 種類・点数
  • 絵画、版画、写真、彫刻、オブジェ、インスタレーション等
  • 未発表の作品に限る(個展出品作は可)
  • 平面作品は合計で幅5.5m×高さ4.8m
  • 立体作品は床面3.5m×2m以内
  • 点数制限なし(下限は30号以上、合計60号以上)
  • 搬入時間
  • 10:00−13:00
  • 出品料
  • 16,000円(一般出品者)30歳未満は半額
  • *注:出品料は改定する予定です。
  • 応募方法
  • 会員または事務局の推薦が必要ですが、
  • 出品作に対する審査はありません。
  • 当会の考え方や活動等に賛同し、出品を希望する方は、下記事務局に画歴と作品のコピーをお送りください。運営委員会にて検討させていただき、結果をお知らせします。
    (なお、応募書類は返却しません。予めご承知おきください。)

「汎美2020」のフライヤー

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