artkoubo MAGAZINE
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[File49] 汎美術協会
個性や実力に応じた「教育」への新たな取り組み

2018/10/26 ※更新2022/7/22
堀浩哉氏による作品講評会 「2018 汎美秋季展」
歴史ある会の精神を受け継ぎつつ、時代に適応した多様な取り組みにも意欲的な汎美術協会。今秋、会員の教育に主眼を置いた新たな企画がスタートした。具体的な内容とそこに込めた思いを、現事務局長の中西祥司氏と前事務局長の大野善孝氏にうかがった。
作家として一歩、先へ進むために
  • 「すべての作家は対等である」という信条に基づき、権威主義的な階層性や審査・授賞制度を一切排除した公募展を開催する汎美術協会。絵画から写真、彫刻、インスタレーションまであらゆるジャンルを受け入れ、「汎美展」(国立新美術館)、「汎美秋季展」(東京都美術館)、「汎美小品展」(都内ギャラリー)を3本柱に展開。会の魅力を幅広くアピールするとともに、近年はギャラリートークやQRコードの導入、サイトの充実化、SNSの活用など、内外のコミュニケーション推進にも積極的に取り組んできた。そして今年の秋季展から始めた新しいイベントが、ゲスト作家による「講評・講演会」だ。
— 「講評・講演会」は、具体的にどんな内容なのでしょうか? また、どのような目的で企画されたのですか?
中西:外部の作家を招き、会員の出品作品を講評していただくイベントです。通常、公募展の多くは、その会の大御所が会員の作品を批評し、会員はその考えに学ぶという教育を行っています。しかし汎美は、そういう上下関係のある組織構造ではありませんし、仲間同士で意見を言い合うことはあっても、講評や教えを受ける機会はなかなかありません。ギャラリートークで会員同士のディスカッションなどは行っていますが、それはどちらかといえば一般の来場客にアピールするためのものなので、もっと「教育」に寄った切磋琢磨の場が必要なのではないか。作家一人ひとりが成長し、美術・芸術としての評価を高めていくためには、有効な学びの場が必要なのではないかと考え、「講評・講演会」を開催することにしました。
大野:仲間内で批評し合うと、どうしても相手に気を遣って厳しいことは言わないんですよ。そうすると、だんだん自分に都合のいいことしか耳に入らなくなってしまう。それでは成長は望めません。自由で平等であるところは汎美の特徴であり、魅力でもありますが、そこに甘えてはいけない。この「講評・講演会」は学びの場としてひとつのステップになるのではないかと会員たちも期待しているようで、歓迎の声が多いですね。
2018年9月29日に行われた講評会の様子。会員の作品ひとつひとつに丁寧にコメントした
— 初回の講師を多摩美術大学名誉教授・堀浩哉氏に依頼されたのはなぜですか?
中西:我々が目指しているのは、作家一人ひとりの個性や現在のレベル、考えていることなどに合わせた講評会です。全員が一定の技術レベルに達するための指導ではなく、各々が自分の表現を追求する中で、もう一歩先へ進むにはどうしたらいいか。その気づきを与えられるような講評会にしたいと思っていました。堀さんも同じ考えで、この件を相談して会員の作品を見ていただいた時、「もったいない」と言われたんですよ。きちんと教えてあげれば、美術作品としてもっと良くなるものがいくつもあると。堀さんは素晴らしい作家であるだけでなく、長年多摩美の絵画科で教鞭をとり、人と作品を見て学生一人ひとりの個性を伸ばしながら育ててこられた方なので、そういう講評を汎美でしていただければ、特に若手作家にとっては有意義な学びの場になるのではないかと考えました。今すぐには言われたことの意味がわからなくても、将来壁にぶつかった時に、ああ、こういうことだったんだと身に染みてわかる。それが学びだと思いますし、この機会が作家としての基本的な骨格をつくっていくことにつながればと考えています。
— 継続していくことで、会全体の底上げも期待できそうですね。
中西:それが重要なことです。作家が成長し、作品の質が高まることでさらにインパクトの強いユニークな展覧会になります。まさに、そこでの相互批評は会員同士の切磋琢磨にふさわしいものになると思います。現在、春は国立新美術館、秋は東京都美術館で汎美展を行っていますが、それぞれに魅力があり、個性や客層も異なるので、この2会場で開催する意味は大きいと思っています。この会場確保のためにも、一般の入場者も含め、評価される展覧会を開催していきたいと考えています。
「2018 汎美秋季展」 会場(東京都美術館・上野)
ダイナミックな表現で汎美らしい展示を
— 今年の秋季展は、昨年にも増して汎美の特徴がよく表れていますね。
中西:壁を覆いつくすような大作もあれば小品もあり、立体、インスタレーションもある。これだけバラエティに富んだ作品がコンパクトにまとめられた展覧会は、他の公募展ではなかなかないと思うので、ユニークで面白いと思います。お客さんにも楽しんで見ていただけたのではないでしょうか。
大野:一人で5メートル幅の壁面を使って出品できる機会は、公募展ではまずないですよ。今回も会場で一日かけて作品を組み立てている人がいましたが、そういう光景も汎美展ならではだと思います。
中西:一般的には、最初は出品しても小さいサイズで、何年か続けてだんだん大きくなるものですが、汎美は推薦さえ受けられれば、いきなり5メートルの壁を自由に使える。作家として、そういうダイナミズムを感じるような取り組みができるのも汎美らしさだと思うので、特にエネルギッシュな若い人にチャレンジしてほしいですね。
壁面を覆うようなダイナミックな作品も多く見られた 「2018 汎美秋季展」
(取材・構成=杉瀬由希)
中西祥司 Nakanishi Shoji
  • 1967年 多摩美術大学 デザイン科入学
  • 1969年 美術家共闘会議の結成に参加
  • 2009年 サロン・ド・ユニゾン展(世田谷美術館)2012年まで毎年出品
  • 2010年より汎美展に出品(国立新美術館)、以後秋季展(東京都美術館)、小品展を含め毎回出品
  • 2010年 日仏現代国際美術展(大森ベルポート/アトリウム)
  • 2015年 パリ 春の現代美術展に出品(Galerie Etienne de Causans/Paris)
  • 2015年より汎美術協会事務局長を務める
  • 2018年 パリ個展(パリ、エチネンヌ・ドゥ・コーザン・ギャラリー)
大野善孝 Ono Yoshitaka
  • 1969年 武蔵野美術大学油絵専攻 卒業
  • 個展・グループ展で作品発表の後、1977年汎美展初出品
  • 1978年 汎美術協会会員 以後今日まで毎年出品
  • 2003年~2006年、2011年~2014年汎美術協会事務局長を務める
公募情報
汎美術協会
2019 汎美展 ※終了致しました。
  • 日程
  • 2019年3月6日(水)~18日(月) 休館日3月12日(火)
  • 会場
  • 国立新美術館
  • 種類・点数
  • 絵画、版画、写真、彫刻、オブジェ、インスタレーション等
  • 未発表の作品に限る(個展出品作は可)
  • 平面作品は合計で幅5.5m×高さ4.8m
  • 立体作品は床面3.5m×2m以内
  • 点数制限なし(下限は30号以上、合計60号以上)
  • 出品料
  • 15,000円(一般出品者)30歳未満は半額
  • 応募方法
  • 会員または事務局の推薦が必要ですが、出品作に対する審査はありません。
  • 当会の考え方や活動等に賛同し、出品を希望する方は、下記事務局に画歴と作品のコピーをお送りください。運営委員会にて検討させていただき、結果をお知らせします。
    (なお、応募書類は返却しません。予めご承知おきください。)

「汎美 2019」のフライヤー

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団体問合せ
  • 汎美術協会事務局
  • 〒168-0074 東京都杉並区上高井戸2-4-10 大野善孝方
  • 03-5370-6235
  • jimukyoku@hanbi.jp
  • https://m.facebook.com/hanbiten/
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