毎年春に国内最大級の公募展「国展」を主催する、歴史ある美術団体「国画会」。2016年からは会期中に特別イベントとして、全国各地から招いたアートシーンをリードする美術館学芸員によるシンポジウムも開催している。そこで、シンポジウムを含めた国画会の活動や歴史を、第92回国展の受賞作家の作品・コメントと共に紹介する。
国立新美術館・講堂で開催されたシンポジウムには多くの聴講者や会員らが集まった。
美術界を牽引してきた団体としての使命
- 国画会は1918年、土田麦僊、村上華岳らの日本画のグループ「国画創作協会」から始まり、今年第92回を迎えた「国展」の名はその定期展に由来する。国画創作協会は、その後、洋画家の梅原龍三郎や川島理一郎が加わったことにより洋画部が独立、「国画会」としての歴史が始まった。会は絵画部、版画部、彫刻部、工芸部、写真部の5部門で構成され、先達会員には清水多嘉示、平塚運一、棟方志功、畦地梅太郎、木村伊兵衛、民芸運動を率いた柳宗悦や濱田庄司、河井寛次郎、バーナード・リーチなど、近代日本美術の先駆者が名を連ねる。また戦前、海外の作品に触れることの少なかった当時の日本に、マティス、ロダン、モネ、ピカソ、セザンヌなどの作家の作品を紹介し、美術界に大きな影響を与えた。
- 長きにわたり美術団体を牽引してきた国画会が、現在注力するのが「国展」の企画イベントとして開催しているシンポジウムだ。かつて公募展は作家デビューへの唯一の手段だった。しかし今日ではさまざまなコンペティションやアートフェアが行われるようになり、美術団体を取り巻く環境は大きく変化している。その中で公募展を維持し続けていくためには何をすべきなのか。美術の専門家に意見を問い、今後に生かしながら美術団体や公募展の在り方を模索していくことが、このシンポジウムの目的だ。
- 3回目を迎えた今年のテーマは、「現代アートシーンとこれからの美術団体」。国画会が設置する5部門それぞれに造詣が深い美術館学芸員、三菱一号館美術館・野口玲一、町田市立国際版画美術館・藤村拓也、山形美術館・岡部信幸、パナソニック汐留ミュージアム・岩井美恵子、島根県立美術館・蔦谷典子の5氏をパネリストに迎え、国展を鑑賞した感想や集客のために自館で取り組んでいることなど、公募展のこれからについて意見を述べ合った。第2部では来場客とパネリストによるディスカッションも実施。発信者と観者、それぞれの立場から公募展を考え、両社を結ぶためにできることを多角的に探る貴重な機会となった。
第92回国展シンポジウム・フライヤー
「国画賞」受賞作に見る、会の精神と魅力
- 「創作の自由」をモットーに、個性を尊重し、時代に呼応した美術活動を展開する国画会。「国展」は毎年5月に国立新美術館で開催され、数多の応募作品の中から今年は絵画部373名、版画部70名、彫刻部35名、工芸部78名、写真部180名が入選、展示を果たした。その中から「国画賞」を受賞した各部門の作品を、作家のコメントと共に紹介しよう。作家には作品について、国展との出会い、会の魅力をそれぞれうかがった。
- 国画賞 絵画部
- 宋 貴美子 「種子の眠りが覚まされて」 F130号
- 1960年 兵庫県生まれ
- 嵯峨美術短期大学 洋画卒
- 2015年 第50回関西国展 奨励賞
- 2016年 第51回関西国展 新人賞
- 2017年 第91回国展 新人賞
- 2018年 第92回国展 国画賞
- — 作品についてお聞かせください
- 技法:色鉛筆、アクリル、油絵具を使用
- テーマ:女性性をテーマに制作しています。
- 小さい頃から刷り込まれた女性性の生きづらさや、『解放感をもって女として生きていくということは』をテーマにしています。
- — 国展との出会いを教えてください
- 友人、知人が国画会に入選したので、誘われて初めて国展に行きました。様々なスタイルの作品があり、なんて自由な会なのかと驚きました。(それまでは美術団体というのは息苦しい所というイメージを持っていました)それで、私もぜひここに応募したいと翌年から応募しました。応募は今年で6回目となります。
- — 国画会の魅力はどんなところですか?
- まず、スタイルの自由さが魅力のひとつです。入選してから思ったのは、全員の先生が過去の作品をよく覚えて下さり、目の前の作品の講評だけでなく、今までの作品の流れも視野に入れてとても丁寧な講評を下さることが最も大きな魅力だと思います。育てられていると感じるからです。
- 国画賞 絵画部
- 梅田 勝彦 「花雲」 w1620×h1940
- 1963年 石川県生まれ
- 1986年 金沢美術工芸大学油絵科 卒業
- 2001年~ 国展出展
- 2017年 第91回国展 国画賞
- 2018年 第92回国展 国画賞
- — 作品についてお聞かせください
- 木版画です。先輩美術家が「種子」というタイトルで抽象画を連作で制作していて、彼は僧侶でもあるので仏教用語として使われているものと思っていました。本人に聞くと実際は違っていましたが、種子(しゅうじ)には「現象を生じさせる可能性としての原因」という意味があってタイトルにしました。種子には様々な可能性が眠っていると信じたいからです。
- — 国展との出会いを教えてください
- ご指導いただく、国展会員の木村多伎子先生の勧めで国画会に応募しました。5度目の挑戦です。1回目は落選しましたがサイトウ良先生の手書きのお言葉に勇気づけられました。後に国画会には、20代に感銘を受けた版画家・棟方志功が一時期所属していたことを知り驚きもありました。作品の制作が非常に遅いので、これからも続けられるように制作スケジュールに気をつけたいです。
- — 国画会の魅力はどんなところですか?
- 国展に関わるまでは北海道で作品を発表していましたので、国画会の作品の多様性と水準には驚いています。出品した作品を熱心に指導してくださるので、次に取り組む問題が見えてきて非常に助かりました。後続の美術家を育てる姿勢が会全体の作品水準を上げている理由のひとつだと思っています。
- 国画賞 版画部
- 福地 秀樹 「種子3」 1120mm×780mm
- 1968年 北海道生まれ
- 2007年 第81回国展 入選
- 2017年 第91回国展 新人賞
- 2018年 第92回国展 国画賞
- — 作品についてお聞かせください
- 木版画です。先輩美術家が「種子」というタイトルで抽象画を連作で制作していて、彼は僧侶でもあるので仏教用語として使われているものと思っていました。本人に聞くと実際は違っていましたが、種子(しゅうじ)には「現象を生じさせる可能性としての原因」という意味があってタイトルにしました。種子には様々な可能性が眠っていると信じたいからです。
- — 国展との出会いを教えてください
- ご指導いただく、国展会員の木村多伎子先生の勧めで国画会に応募しました。5度目の挑戦です。1回目は落選しましたがサイトウ良先生の手書きのお言葉に勇気づけられました。後に国画会には、20代に感銘を受けた版画家・棟方志功が一時期所属していたことを知り驚きもありました。作品の制作が非常に遅いので、これからも続けられるように制作スケジュールに気をつけたいです。
- — 国画会の魅力はどんなところですか?
- 国展に関わるまでは北海道で作品を発表していましたので、国画会の作品の多様性と水準には驚いています。出品した作品を熱心に指導してくださるので、次に取り組む問題が見えてきて非常に助かりました。後続の美術家を育てる姿勢が会全体の作品水準を上げている理由のひとつだと思っています。
- 国画賞 彫刻部
- 平敷 傑 「ヒ―ジャー」 1190mm×1870mm×650mmm
- 1988年 沖縄県生まれ
- 2017年 沖縄県立芸術大学大学院造形芸術研究科環境造形専攻 修了
- 2011、12、16、17年 沖縄県芸術文化祭
- 2012、13、14、16、17、18年 沖展
- — 作品についてお聞かせください
- テラコッタで制作しています。身近にいる動物の中で最も魅力を感じたヤギをモチーフにして制作しました。ヤギの魅力は何処から来ているのかを見極めながら、彫刻表現におけるフォルムの表現を模索しています。土を積み重ねて一つの形を作り出し、乾燥をさせた後、窯で焼き上げます。形の構造によって崩れやすいため常に素材との対話が必要です。柔らかな素材は、様々なマチエール表現の可能性を引き出せると考えています。
- — 国展との出会いを教えてください
- 人生というのは面白いもので、いつ、どこで、どのような出会いがあるのか日常生活の中で気づきにくいものです。だからこそ、自分を振り返り、それが現在とつながった瞬間に大きな感動を得るのだと思いました。わたしが生まれて間もないころ、鉛筆を握りしめた時には国画会へとつながる道が開いたということです。大学で出会った先生から国展についてお話を聞いたことがきっかけとなり、92回展をむかえた国展にはじめてチャレンジしました。100回展にむけてどんな表現をしていくか楽しみな気持ちでいっぱいです。
- — 国画会の魅力はどんなところですか?
- 国画会に魅力を感じるのは、芸術を愛する多くの人が集まる場であるということです。交流の場では専門的な話題が飛び交い、過去の出来事から現在の流れについて様々な意見を聞くことができたのはこの上ない喜びで、創作の視野がどこまでも広がるような感覚です。はじめて応募し、搬入・飾りつけ・搬出を行いましたが、会には温かな雰囲気があり、作品を設置するなかでも表現についての学びがありました。今後の芸術活動に活かしていきたいと思います。
- 国画賞 工芸部
- 陽山 めぐみ 「手紡木綿絣 穀雨」
- 1964年 大阪府生まれ
- 1992年 第66回国展 新人賞
- 第17回全日本新人染織展 京都府長賞
- 1994年 日本民藝館展 奨励賞
- 第19回全日本新人染織展 大賞
- 2013年 日本民藝館展 奨励賞
- — 作品についてお聞かせください
- 着物を制作。経緯全ての糸は綿から自分で紡いだ糸です。藍染は本藍の紺屋さんにお願いしました。草木染めはひとつの色にひと月かけて染重ねています。経の絣(かすり)はすぐに決まったのですが絣が強くて機に糸をかけてから緯糸(ぬきいと)に苦労しました。今の自分ではこれ以上できないという思いでした。
- — 国展との出会いを教えてください
- 陶芸家の柴田雅章さんに「多くの人に観てもらうつもりで気楽に」と教えていただき出品し始めました。初出品で新人賞を賜りましたが3回ほど出品した後に、出産や子育てで織れない時期がありしばらく休みました。7年前から再挑戦しています。
- — 国画会の魅力はどんなところですか?
- 分野を越えた多くの先生方のお話しが聞けること。また、続けることで「毎年国展でみています」という方が増えてきたことや、会場で知らない方から声をかけていただけるのも嬉しいことです。
- 国画賞 写真部
- 宮川 美代子 「暁に咲く」 500mm×1070mm
- 1945年 新潟県生まれ
- 2015年 第89回国展 初出品 初入選
- 2018年 第92回国展 国画賞
- — 作品についてお聞かせください
- 写真。私は写真を撮るのが好きです。退職してから地元の写真教室に入りました。技術も技法も乏しいですが、写真は一期一会で良いシャッターチャンスに恵まれると嬉しいです。
- — 国展との出会いを教えてください
- 4年前にはじめて出品をすすめられ、わからないことも多いなか出品しました。過去3回入選し4回目でこの度の賞をいただき、最初で最後の栄誉と思っています。
- — 国画会の魅力はどんなところですか?
- はじめての祝賀会に参席し、交流などおこがましくて部屋の隅にいました。国展の作風は独特でレベルが高く追いつけないというのが本心です。
(テキスト=杉瀬由希)
当サイトに掲載されている個々の情報(文字、写真、イラスト等)は編集著作権物として著作権の対象となっています。無断で複製・転載することは、法律で禁止されております。