artkoubo MAGAZINE
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[File50] 主体美術協会
多様な個性の中に息づく会の精神

2018/12/18 ※更新2022/7/21
「第54回主体展」の展覧会委員3名がそれぞれ作品の魅力を語る
この9月に第54回主体展を東京都美術館で開催し、好評を博した主体美術協会。
今回は会員の續橋守、長沢晋一、中城芳裕の3氏に、特に印象に残った作品を2点ずつ選んでいただき感想をうかがった。惹かれたポイントや作品に読み取った思いから、会の気質や精神に触れることができるだろう。
2室で作品と向き合う3氏。左から長沢晋一氏、中城芳裕氏、續橋守氏
主題も技法も対照的な若手2人の作品
柿崎 覚 《水辺のひととき》 F100
※以下作品画像は全て2018年第54回主体展より
井上 樹里 《廻帰 the origin point》 260×130㎝×2
作品をみつめる續橋守氏
— それではまず續橋さんが選ばれた、柿崎覚さんの『水辺のひととき』と井上樹里さんの『廻帰 the origin point』から、みなさんのご感想を聞かせてください。
續橋:『水辺のひととき』は、私も絵の具をのせていくタイプなので、この作品に興味を持ちました。もともと主体美術はその名の通り、自分の個性を前面に押し出した作品を描く人が多いんですが、この絵もどこにでもありそうな風景だけれど、絵の具を十分に使ってナイフを駆使し、絵の具を言葉にして木々や空気や水といった自然を伝えようとしている。ただ写し取るのではない、作者の精神、エネルギーを感じる作品。非常に積極的で前向きな、明るい印象を受けます。
中城:彼は20代から出品している、まだ30代の若手作家です。昔の主体美術にはこういう厚塗りの、労働者を題材にしたような絵があったんですが、最近はほとんどない。特に若手はかなり写実的な絵を描く人が多いので、彼のような作家は珍しいですね。
長沢:上の景色よりも下の水面の景色の方が分量が多いので、水に映っているところの魅力を表現したかったんだろうなと思うし、それが伝わってくる。
續橋:面白いのは、普通は水面の景色は鏡のように反射するんだけど、色や形を微妙に変えているところ。テーマと技法と気持ちと狙いが、すべて一体となってまっすぐに伝わってくる、気持ちのいい作品ですね。

井上樹里さんの作品は、目には見えないけど、地球や宇宙をかたちづくっている、宗教的な言葉で言えば神様のような、そういう存在を感じる。旧約聖書の天地創造を想起させる作品だと思います。希望や夢を象徴するような光が闇から差し込んでいて、暗い色調の中にこういう明るいファクターがあると、とても魅力的ですね。

長沢:絵そのものはもちろん、作品づくりに対する強いこだわりを感じる。額装や縦横2:1のサイズ、2枚の作品の展示方法など、そういうこだわりは大事だと思います。
中城:井上さんも、20代から出品している若手作家ですね。彼女の絵は抽象というよりも心象風景で、目に映るものだけじゃなく、心の中の葛藤も含めて、救いを求めているような絵だと思うんですが、今回は特に成功している。とてもいい絵だと思います。他者が共感して感情移入できるような作品をつくるというのは、なかなかできない奇跡的なことなので、絵と向き合った時の瞬間の判断などもよかったんでしょう。
續橋:心の中に響く絵ですね。柿崎さんとは対照的で、技法としては非常に繊細。今までの彼女の絵の中ではずば抜けていいと思うし、これからが楽しみです。
異なる2つの抽象作品について語る長沢晋一氏
300点の作品の中でも少数派の、持ち味異なる2作品
森 慎司 《アジール(プラネタリウム)》 106×108㎝
柏木 喜久子 《2018 象 -しょう-》 F50×2
— 長沢さんは、森慎司さんの『アジール(プラネタリウム)』と柏木喜久子さんの『2018 象―しょう』を選ばれました。
長沢:森さんの作品は、形状がちょっと変わっているんですが、こういう作品自体が主体美術にはあんまりない。最初に見た時、紙芝居を思い出したんですよ。箱枠の絵ということもあると思うけど、一場面、一場面をこの絵の中に入れているところや、終わったらパタンと畳んで次の場所に抱えて持って行くようなところが楽しいなと。それでいて描かれているのは作家のこだわりで、強い物語性のある作品ですね。
中城:これまではずっと大きい、日常にある風景をシュールに描くような写実的な絵を描く人だったので、あ、今回はボックスアートなんだ、と思ってびっくりしました。心境の変化があったのかもしれないし、遊んでみようと思ったのかもしれない(笑)。主体美術はそれができる、自由な会なので。
續橋:作家の心の中に、一枚絵では伝えられない、いろいろな世界が組み合わさって伝えたいメッセージがあるんでしょうね。もし今後もこういう形の作品をつくっていくのであれば、木の材質とかモノ感を作品といかに融合させるかが課題になってくると思います。
長沢:柏木さんの作品は、まずこういうモノトーンの抽象画が主体美術では珍しい。物語性があるようにもないようにも見えるけど、私は多分ないと思うんですよ。物語性とか考えずに、自分の中から自然に出た線であり、形であり、面の対比なんじゃないかなと。それが人によって女性の身体のように見えたり、自然界の物の形に見えたりして、観者に自由に受け止められることによって、作者自身が新しい発見をしている。そんな気がします。
續橋:柏木さんは一貫してこの世界を描いているけれど、毎年違う絵づくりに挑戦していて、今年はこうかとびっくりさせてくれる。色調のバランスや、空間のせめぎ合い、緊張感など、相当考えていると思いますね。シャープだけれど温かみがあって、とても魅力を感じます。
中城:どこまでも女性としての神経が隅々まで通った仕事をされているな、という感じ。僕は高校生の時から柏木さんの作品を見ているんですよ。以前は広い空間の中に柘榴を実物大でリアルに描いたような、そういう具象画を描いていらしたんですが、何十年か経ってこういう抽象画になった。それもここまで単純化されたのはすごいなと。今年の作品は特に惹かれます。
世代を超え継承される主体美術の魂
「若手作家と創立会員が並列で評価されるところが主体の魅力だ」と中城芳裕氏
中村 輝行 《沈黙の間》 F100
大西 佐頼 《N氏の肖像》 S100
— 中城さんが選ばれたのは、中村輝行さんの『沈黙の闇』と大西佐頼さんの『N氏の肖像』ですね。
中城:中村さんは主体美術の創立会員で大先輩でもあるんですが、僕が学生時代に初めて主体美術の絵を見た時は、こういうある意味無骨で反骨精神にあふれた絵が多かったんですよ。だから中村さんのような絵は懐かしい。フォルムが単純化してきたり、画風は少しずつ変化されていますが、ご高齢を感じさせないパワーがありますね。
續橋:中村さんは、最近は牛を時々登場させていて、今回は大きな牛と、小さな鳥と、人間、その中の深さや思いを絵画で表そうと一生懸命取り組んでいる。同じことの繰り返しはしない人で、毎回、絵が生き生きと変わるんですよ。人を引き付ける要素がある、非常に若々しい絵ですね。
中城:地の部分もずれた十字架みたいで面白い。若い頃から抽象と具象の間でせめぎ合っている方だから、ふつうの地面とか、そういう透視図的空間は描かれない気がします。
長沢:私は絵を見る時「対比」をひとつのキーワードにしているんです。この作品は、大きくて怖そうな牛と小鳥の対比とか、黄色い画面と黒の対比、そういったものが生きていて、大きな魅力になっていると思います。
中城:一方の大西さんは今年会員推挙になった若手作家で、中村さんとは年齢が50歳離れてるんですよ。僕が主体美術に出品するようになったのは、僕より50歳上の森芳雄の絵にあこがれたのがきっかけだったんですが、大西さんも高校時代、古本屋で偶然森芳雄の作品集を見つけて「すごい作家がいる!」と思ったそうですし、中村さんの絵も十代から見ていて、ずっと刺激を受けて育ってきたような人なんです。若い女性があえてこういう無骨な絵を描くというのは非常に興味深いし、いろんな世代がめぐり会って、その中で育っていくというのが主体美術らしくていいなと思います。
長沢:スマホを持ってるこの無骨な手に、僕は魅力を感じるんですよ。この絵を物語っているような気がして。この手を見てると、ほかのことは吹っ飛んじゃうくらい惹かれる。
續橋:思い切りの良さというか、省略化が見事ですね。単調はよくないけど、単純化はいいんですよ。それがぴたっと決まった作品。まだ若いから、この先自分中で出てくるだろういろんな問題を、どういう風に解決していくのか。空間とモチーフをどのように造形的につくるか。これからが楽しみな作家です。
『宝物』を持ち寄った物故作家展も話題に
「私の大切な作品」と題した2018年の企画展示室
— 今回の主体展では、会員の皆さんが所有する物故作家の作品を持ち寄った展示「私の大切な作品」も好評でしたね。
中城:多くの鑑賞者に喜んでもらえる展示を、いかにお金をかけずにやるかをいつも考えているので(笑)、そこからこの企画が生まれました。
長沢:私たちも自分が持っている絵を提供したんですが、一堂に会してみると興味深いですよね。懐かしいというのもあるし、同じ作家の絵でもずいぶん違ったり。その作家のご家族も見に来てくださり、想像以上に反響がありました。
續橋:中には終戦記念日の直前に描かれた絵もありましたね。
中城:その頃は大変な思いで描いたんでしょうね。小さいデッサンでも鬼気迫るものがあった。
續橋:何十年ぶりにそういうことを思い出すきっかけにもなり、いい企画だったのではないかと思っています。多分、みんなもっといろんな作家の作品を大事に持っていると思うので、ぜひ2回目、3回目も行いたいですね。
企画室にはデッサン、ドローイング、モザイク画、水彩、油彩など様々なジャンルの作品が並ぶ
企画展会場には一般の来場者だけでなく物故作家の知人なども訪れ語らう姿があった
續橋守 Tsuzukibashi Mamoru
  • 1943年、北海道生まれ。19歳で大検に合格し、倉石隆に師事。東京学芸大学在学中、第1回主体展に出品入選。4回展まで連続出品。1年半のフランス滞在に続く4年間の不出品を経て、第9回展から今回まで連続出品。
  • 《製錬所の跡》 F150
長沢晋一 Nagasawa Shinichi
  • 1949年、埼玉県生まれ。73年武蔵野美術大学実技専修科卒業。84年主体展初出品。99年主体展会員。個展、グループ展多数開催。
  • 《玄 Aug.2018》 183×225cm
中城芳裕 Nakajyou Yoshihiro
  • 1958年、高知県生まれ。78年主体展初入選。83年筑波大学大学院修了。91年主体展佳作作家、会員推挙。共立女子学園美術科専任教諭、共立女子大学非常勤講師。
  • 《聖書の中の女性たち》 216×250cm
(取材・構成=杉瀬由希)
展覧会情報
主体美術協会
主体展秀作作家(2018)と会員小品展 ※終了致しました。
  • 日程
  • 2019年1月31日(木)~2月11日(月)
  • AM11:00~PM6:00
  • 会場
  • ヒルトピア アートスクエア
  • ヒルトン東京地下1階ヒルトピアショッピングアーケード内
  • 第54回主体展で推挙された秀作作家12名による作品展と会員有志58名による小品展
公募情報
2019年 第55回記念主体展 ※終了致しました。
  • 日程
  • 2019年9月1日(日)~9月16日(月祝日) *9月2日(月)休館
  • 会場
  • 東京都美術館1F(上野公園)
  • 巡回
  • 神戸展 原田の森ギャラリー
  • 2019年10月2日(水)~10月6日(日)
  • 名古屋展 愛知県美術館
  • 2019年10月22日(火)~10月27日(日)
  • 応募規定
  • A、一般部門 絵画(油絵,水彩、その他)未発表作 作品の大きさ:w260×h350cm以内。点数:制限なし。
  • B、新人部門(2019年8月31日現在30歳以下に限る)絵画(油絵、水彩、その他)未発表作 作品の大きさ:制限なし。点数:制限なし。
  • 出品手数料
  • A、一般部門:3点まで12000円1点増すごとに2000円
  • B、新人部門:2019年8月31日現在25歳以下 無料、同30歳以下一般部門の半額
  • 第55回記念主体展の展覧会詳細は主体美術協会ホームページにて公開しています。
  • https://www.shutaiten.com/shutaiten/55.html

主体展秀作作家(2018)のDM

会員小品展のDM

ART公募内公募情報 https://www.artkoubo.jp/shutaibijutsu/
団体問合せ
  • 主体美術協会 事務局
  • 〒168-0063 東京都杉並区和泉4-36-10 齋藤典久方 (2022年度より事務所移転)
  • https://www.shutaiten.com/
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