1964年、主体美術協会の誕生にあたり運営方針等を話し合う場として頻繁に利用された東京・中野の福蔵院。右:創立会員の吉井忠氏が命名。左隣は同じく創立会員の森芳雄氏。<絵:中嶋修>
自由美術家協会から独立し、新たな美術団体として発足してから今年で53年を迎える主体美術協会。「主体」の名に託した思いや会の特徴、求める人材について、同会事務局の責任者・﨤町勝治氏に話を聞いた。
権威主義に対抗した、平等な画友の集まり
- 主体美術協会は自由美術家協会を前身に持ち、より自由な発表の場を求める80余名の画家たちにより、1964年に結成された。その名の通り、作家一人ひとりの主体性と自由な創作表現を尊重する会の基本姿勢は、半世紀余りを経た今も変わらないと、第6回展から出品を続けている会員の﨤町勝治さんは語る。
- 「権威主義をよしとせず、作家は皆平等な“画友”という考えです。先輩はもちろん大事にしますが、上下関係はないので、初入選した若手が巨匠と普通に意見を言い合ったりしていますよ。組織としても、事務局はありますが、事務局長は存在しませんし、会長や理事長もいません。スムーズな運営のために最低限必要な責任者は、そのつど選挙で公平に決めています」
話を伺った事務局責任者の﨤町勝治さん
1965年に東京都美術館で第1回展を開催。高い石段と大円柱がそびえる旧美術館のエントランス(左)。裏玄関(右)は出品者や会員の交流の場であった。
- 毎年開催している「主体展」においても、大賞をはじめとする賞の類はあえて設けず、それに代わる佳作作家、秀作作家を選出する形式を採用。選出の方法も、一般の応募作品を会員全員で審査し、意見を出し合いながら公明正大に決めていく。
- 「どの絵の、どこがよくて、どこがよくないのか。みんなの意見を聞くことが自分たちにとってもいい勉強になるんです。基本的に絵描きは、私も含めて、自分の絵のことしかわかっていませんからね。人によっていろいろな見方があることに改めて気づかせてくれる、こういう場は貴重です」
大友恵子 《雪女 幻影(1)》
第52回主体展(2016年)会員推挙・秀作作家
坂田嘉憲《刻の譜》
第52回主体展(2016年)会員推挙・秀作作家
佐々木満《仮面夜話》
第52回主体展(2016年)会員推挙・秀作作家
生で、エネルギーを体感してほしい
- 﨤町さんと主体美術協会との出会いは、地元の高校を卒業した﨤町さんが上京して間もない頃。出展先を決めるため、さまざまな団体の展覧会を見て回っていた時に、たまたま開催されていた主体美術協会の第5回展を見たのがきっかけだった。
- 「軽い気持ちで会場に入ったんですが、これはすごいなと思った。作品は暗いものが多いのに、何ともいえない、不思議なエネルギーを感じたんです。早速、事務局で自分の住まいに近い会員を紹介してもらい、連絡をとったところ、とんとん拍子で事が運び、わずか1、2週間のうちに何人もの大御所会員たちと知遇を得ました。みんなそれぞれに個性的な人柄で、その魅力もあったのか、以来主体(美術協会)にどっぷりです(笑)。当時から一貫して作家の独自性を求めている会なので、団体に属することに抵抗のある人も、まず一度会場をのぞいて見ていただきたいですね」
創立当初、会合の後には決まって居酒屋に流れて熱く意見を交わした。その習わしは今も続いている。
長濵志保《その文字Ⅰ》
第52回主体展(2016年)会員推挙・秀作作家
永井直子《がんばれ、オレ!》
第52回主体展(2016年)会員推挙・秀作作家
第52回主体展(2016年)会場の様子(左はアーティストトーク)
第52回主体展(2016年)地方展の様子 左:名古屋会場 右:京都会場
- 会の主な活動は、年に1回の主体展と、各地域で自然発生的に発足した会による地域展。主体展は応募料を、25歳以下は無料、30歳以下は半額にするなど、若い作家の支援にも積極的だ。第53回となる今年の主体展は、9月1日から始まる東京都美術館を皮切りに、名古屋、神戸と巡回予定。東京では会発足時の代表メンバーである森芳雄氏の没後20年企画展示と追悼イベントとして、文化勲章受章の洋画家・野見山暁治氏を迎えた講演会も開催されるので、貴重なこの機会にぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
会創立の代表メンバーである森芳雄氏作品。2017年9月開催の第53回展主体展では、同氏の作品も出展される。没後20年の追悼イベントとして講演会も開催予定。
《枝のある静物》1930年
《母子像》1985年
《リンゴ》1995年
﨤町勝治(そりまちかつじ)
1949年、長野県生まれ。70年、第6回主体展初入選、以後連続出品。79、82、84年、主体展にて佳作入選。84年、主体美術協会会員推挙。日本美術家連盟会員。個展も多数行い、昨年は故郷の長野県高山村で村制施行60周年記念企画展「﨤町勝治絵画展」を開催した。
巨木の根を描き続けている﨤町さんの近作『安久山大椎Ⅱ』。
「根を下した土地の環境に対応して何百年と生きてきた木の、生命力と長い時間の堆積に魅力を感じます」
(取材・構成=杉瀬由希)
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