昨年(2016)の第82回旺玄展における、ギャラリートークの様子
昭和7年(1932)に結成、「生涯在籍の美術大学」を標榜し、会員それぞれが自己の作品追求へと、たゆまぬ努力を注いできた旺玄会。近年の新たな試みとして、旺玄会展と同時開催の、一人の作家の多様な表現を紹介する企画展がある。第83回旺玄会展における企画展のテーマは「わがふるさとの山河」。展覧会への取り組みや思いを、事務局長の片山聖三氏にうかがった。
片山聖三[かたやませいぞう]
昭和8(1933)年、日本統治下の朝鮮・大邱市生まれ。東京大学文学部卒業。
平成8(1996)年、旺玄会初入選。平成17(2005)年、旺玄会会員推挙。
現在、同会常任委員。
一人の作家のなかの、多様な魅力を伝えたい
- 帝展の中心的画家であった牧野虎雄が、盟友、門下生とともに旺玄会を創設したのは、昭和7(1932)年のこと。翌年の昭和8(1933)年、第1回展を開いて以来、作家の自由な創作を尊重し、伝統の上に革新を重ねた独自の気風を築いてきている。
- 「旺玄会では、絵画というものは基本的に、主義や技巧が先行するのではなく、作家の思いを伝えるものだと考えております。従って、その表現は極めて多様ですが、同時に見る人にそれがどのように伝わるかと言うことも大切です。独りよがりではなく、観客が、絵の奥にいる作家の思いをいくらかでもくみ取れるように、表現技術を高める必要があります」。常任委員の片山聖三氏は、設立以来受け継がれてきた会の趣旨をこう語る。
(左)第82回旺玄展 無鑑査 馬場由紀子《静かな意向》日本画 F120号
(右)同 文部科学大臣賞 宮野みゆき《命のハーモニー》油彩 変150号
(左)第82回旺玄展 牧野賞 石井代央子《繋ぐ―2016―》油彩 F130号
(右)同 玉之内賞 長森雅世《片隅―残されたモノたち》油彩 240×130cm
(左)第82回旺玄展 無鑑査 石井好道《わが町》油彩 F130号
(右)同 上野の森美術館賞 松本奈緒子《祖父のまなざし―原点―》その他 S80号
(左)第82回旺玄展 新人賞 秋山泉《Summer Breeze Ⅱ》版画 P20号
(右)同 新人賞 溝江晃《宙の教室》油彩 F100号
- 表現の技術を追求する一環としての近年の試みに、企画展示がある。作家は通常、一定時期、同じようなテーマの作品を連作するが、それがその作家の全てを語るものではない。そこで旺玄会では、毎年の旺玄展において、通常の展示と同時に、複数の作家を選抜して多様な表現を紹介する、特別展を企画してきた。
- たとえば昨年(2016)、第82回展にて開催した「小品に見る作家の横顔」では、別会場に大作を展示しているなかから、物故者も含め47名の実力作家を選抜、これらの作家が思い思いに制作した小品を一堂に展示したものであった。鑑賞する側からすれば、それぞれの作家の大作と小品を同じタイミングで見比べられる面白さがあり、制作する側にとってもまた、大作とは異なる自己の特性をアピールする機会にもなる。この企画は大きな反響を呼び、「次回以降も、ぜひ継続して小品展を」との声が上がった。
第82回旺玄展の会場(左)と、同時開催の企画展「小品に見る作家の横顔」会場(右)。両展に出品している作家は、それぞれの会場で、違う切り口からの魅力を伝えることができる
見る人と作家の心が通い合う表現を求めて
- これを受けて第83回旺玄展では、「わがふるさとの山河」という小品展を準備中だ。北海道から沖縄まで19の各支部から1〜2名ずつ、支部周辺を主題とした作品を描くのにふさわしい作家として選出した37名に、本部推薦の11名を追加した、計48名の作家による競作となる。
(左)第83回旺玄展企画展出品予定勝俣陸《早春の湖(芦ノ湖)》パステルF10
(右)同 松田敬三《霜柱》油彩F15
(左)第83回旺玄展企画展出品予定 小花春夫《夢の中で咲いた向日葵たち》デジタル 61×73cm
(右)同 酒井勇一《心象風景―country road》水彩 10.5×45cm
(左)第83回旺玄展企画展出品予定 瀬底正男《夏(ミーバルビーチ)》アクリル F10号
(右)同 佐々木俊子《雪の晴れまに》油彩 F20号
(左)第83回旺玄展企画展出品予定 吉田正造《教会街の朝(函館)》水彩 40×72cm
(右)同 杉田英雄《白い花が咲いていた》油彩 F12号
- 「前年の企画展では、出品者が、常任委員と委員中心であったのに対し、今回は、常任委員から一般出品者まで幅広く分布しているところに、未知数の面白さがあります。また、テーマだけを見れば、お定まりの名勝風景に思われるかもしれませんが、今回は極力“観光絵はがき”的作品にならないよう、その作家ならではの視点、表現方法での作画を心がけるように依頼しています」と片山氏。公募展会場での小品展というと、大作が描けない入門者にチャンスを与えるという性格のものが多いなか、大作を出品している人が、小品ではこんな一面も持っていることを同時に紹介できるこの取り組みは、非常に斬新で意欲的なものと言えるだろう。さらに実力が評価されれば、一般出品者(初入選者を除く)に出品の機会が与えられ、新人にも大きな目標となる。作家一人一人が生き生きと制作に励む環境づくりは、会是である「画の探求、我の調和」、さらには長期的な目標としている「生涯在籍の美術大学」にも繋がっていく。
- 風薫る5月、創立85年を迎えてなお新しい挑戦を続ける旺玄会の、本展、そして企画展を期待して待ちたい。
(構成=合田真子)
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