法人化から10年を迎えた昨年、斎藤寅彦氏を代表理事とする新体制で、さらなる高みを目指してスタートを切った旺玄会。パンデミックの苦難の中でも、会員同士が力を合わせ、絵の魅力を発信し続けてきた。その取り組みと第87回旺玄展開催に向けての展望を、代表理事の斎藤寅彦氏と副理事長の片山聖三氏にうかがった。
コロナの試練を、「画の探求」の好機に
(左)新代表理事 斎藤寅彦氏
(右)斎藤寅彦《時の跡(未完)》油彩、アキーラ混合
自作を前にした副理事長 片山聖三氏
- 昨冬からのコロナ禍で大規模な展覧会の中止が相次ぎ、貴重な作品発表の場を失った美術団体は多いだろう。旺玄会も例外ではない。昨年は、毎年5月に開催する「旺玄展」の中止を余儀なくされた。作家なら誰しも創作意欲を喪失しかねない厳しい状況の中、旺玄会では独自のアプローチで会員たちのモチベーション維持をサポートしてきた。
- まず一つは、定期発行している会報誌「旺玄會報」の編集内容を工夫した。夏号では例年の旺玄展のレポートの代わりに60ページの大特集を組み、この苦境に同じ思いを抱えた仲間からの寄稿記事を掲載。会員、一般出品者の延べ90名が、「旺玄会と私」「忘れ得ぬ思い出」「私の絵画制作について」など思い思いのテーマで現在の心境を綴り、試練をチャンスと捉えた前向きなメッセージで士気を鼓舞した。また今年の新年号で、新理事長に就任した斎藤寅彦氏が「危機的状況であるからこそ、自ら絵を制作し出品し、元気な社会を取り戻そう!」と力強く呼びかけたことも会の結束を促し、求心力を高めた。
- もう一つの特徴的な活動は、YouTubeを利用した動画配信だ。きっかけとなったのは、千葉旺玄会のメンバーが団体の垣根を超え、作家仲間の有志を募って開催したオンライン展覧会。美術作品の新しい鑑賞スタイルを示したこの小作品展は、多くの作家や美術愛好家の関心を集め、旺玄会本部にも大きなインパクトを与えた。これを機に、会を挙げてインターネット美術展の実施や支部制作動画の告知支援に取り組み、これまでに「コロナに負けず画の探求」と銘打った常任委員・委員による作品展や、次世代を担う作家のビエンナーレ「継展」、千葉旺玄会の有志による「ABIHC展」などを紹介している。
アクリル 田中紘子「スパイラルロードA」F100
第27回損保ジャパン日本興亜美術財団選抜推奨展損保ジャパン美術術賞受賞
第85回旺玄展 損保ジャパン賞
濱田充代《磨かれて、旅に出る》
第85回旺玄展 文部科学大臣賞
長森雅世 油彩《片隅“Tear’s》
第82回旺玄展 ホルベイン工業賞
田中洋子 小口木版《フラワーバスケット》
- 「旺玄会のスローガンは、『画の探求、我の調和』。新しい課題に挑戦して描き上げた絵を見てもらい、評価を参考に自作に対する客観的な目を養うことは、まさに『画の探求』に他なりません。もともと旺玄会の『旺』は盛ん、『玄』は奥深いという意味があり、絵の道を盛んに深く追求するという志から命名されました。その精神が、会員たちに定着してきたなと感じています」(片山副理事長)
- 続く「我の調和」は、芸術論争以外の無用な対立は慎み、互いを認めて切磋琢磨しようという意味。牧野虎雄を盟主として1932年に結成された旺玄会は、過去に3度、派閥闘争による分裂を経験している。そのたびに会は弱体化し、再建に苦労した苦い過去の教訓から生み出された箴言だ。片山副理事長によると、ある美術評論家が旺玄会を「画壇には珍しい紳士淑女集団」と称したそうだが、その気風も会の精神の象徴といえるだろう。
第83回旺玄展 奨励賞受賞作家
三宅はるみ 木版画《花の時Ⅰ》
第63回旺玄展 牧野賞
森田克良 ミクストメディア《内なるもの》
本展と併せて楽しみたい、テーマ性に富んだ「企画展」
- 2年ぶりとなる「旺玄展」は、上野・東京都美術館で5月20日から一週間にわたり開催される。依然として情勢は厳しいが、今年こそはと開催に賭ける思いはひとしおだ。
- 「密集を避けるために搬入時の受付場所を拡張し、審査会の審査員数を減らすなど、感染症対策には最大限の配慮をして臨みます。毎年人気のあるギャラリートークや講評会は、人溜まりが避けられないので見送る予定ですが、表彰式や会員同士の貴重な交流の機会である懇親会は、形を変えて実施する方向で検討しています」
- 併せて注目されるのが、本展と同時開催される企画展だ。油絵がメインで大作が並ぶ本展に対し、小品を扱う企画展では同一作家でも作風ががらりと変わる。来場客は同じ会場で一人の作家のいろいろな顔を知ることができ、作家にとっても設定されたテーマに挑戦することで画の探求が進む。
- さらに今年から新たな試みとして、秋には銀座で本展受賞者の選抜展も計画中。同期間、同エリアで、「継展」など旺玄会の別の展覧会を一緒に開催し、相乗効果を生み出す流れをつくりたいと意気込む。
- 「旺玄会は作家の幅が広く、油彩から水彩、パステル、日本画、木版画、鉛筆画、デジタル画、ミクストメディアまで、多様なジャンルの作品を受け入れています。またシニア作家には生涯の学びを支援する環境を、若い作家には出品料や会費を免除・減額する奨励制度を用意しています。最初から本展に出す自信がないという人も、育成機関の役割を担う支部が全国にあるので、まずはそこで力を蓄えて、ぜひ本展に挑戦していただきたいですね。今後も会として作家の成長をサポートしていけるよう、本部と支部でしっかり連携した運営を目指していきます」
(文・構成=杉瀬由希)
第60回記念日本版画会展東京都知事賞受賞
高橋孝夫 木版画《目覚めⅤ》
(左)第70回記念旺玄展記念賞受賞 布谷保則 パステル《秋の渓谷》
(右)第84回旺玄展 東京都知事賞 鈴木てん子 日本画《暗き淵より》
(左)第83回旺玄展新人賞受賞 佐藤和美 色鉛筆《添い寝》
(右)第76回旺玄展 損保ジャパン美術財団奨励賞 平松康弘《未来への歩み》
(左)第54回昭和会展 入選作品 山崎良太 油彩《夢の行き先》
(右)第2回北の大地ビエンナーレ大賞受賞 池田均 水彩《ビートの丘》
(左)第81回旺玄展 文部科学大臣賞 馬場由紀子 日本画《…前へ、それでも前へ。》
(右)第82回旺玄展 上野の森美術館賞 松本奈緒子 鉛筆《だんだん-ありがとう-》
第80回記念旺玄展 玉之内賞受賞
永山勲 水彩《玉ねぎころりん》
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