今年旺玄会は、高桑昌作氏を理事長・会長とする新体制で、100回展を見据えた次なる10年への一歩を踏み出した。そこで今回は、前半は高桑氏に50年以上に及ぶ旺玄会との関わりや会長としての抱負を、後半は事務局長の最賀正明氏にも参加していただき、若手およびシニア作家のためのサポートや5月に控えた第91回旺玄展について話をうかがった。
教職生活で会得した視野と経験を活かして
- 人生を教職に捧げ全うすると共に、画家としての作家活動に生きる喜びを見出してきたという高桑会長。旺玄会との出会いは大学時代。絵を学んでいた美術通信教育スクールKFS(講談社フェーマススクール)で、北米にある本校で学んだ旺玄会の所属作家を紹介されたことに端を発する。20歳で第38回旺玄展に出品すると、持ち前の明るく親しみやすい性格から先輩方に可愛がられ、自然と会に馴染んでいった。大学在学中より、北米、フランス、中国等を遊学し、特にイタリアベルージャ国立大学に留学し、その後多摩美術大学に入学。その間も旺玄展への出品は続け、会員と交流を深めた。なかでも高桑会長が「一生の師」と敬愛する人物が、自身と同じ埼玉を拠点として活躍し、ヨーロッパの古城を描いた作品で知られる玉之内満雄氏だ。
- 「作品もお人柄も素晴らしい方で、弟子としてついて行きたいという気持ちに自ずとなりました。教職の道を目指すようになったのも玉之内先生のアドバイスがあってのことでした。玉之内先生ご自身も小学校の先生でいらしたので、教育関係の重鎮であるご友人を紹介いただき、教師の心構え等ご指導を受けるなか教職の道を歩み始めることができました。」

- 校内暴力全盛時代の昭和50年代には、赴任先の荒れた学校を立て直すことに尽力。生徒や保護者、地域の方々と正面から向き合うと共に、長年にわたり地元の学校警察連絡協議会の幹事も務めた。教員生活と作品制作との両立は想像以上に難儀だったと語るが、旺玄展には毎年欠かさず出品した。
- 「自身の専門以外の外部との付き合いも多かったので、自分の世界だけにこもらず、物事を広く見る目を持てたことは、人としてもまた画家としても大いにプラスになっていると思います。地位や立場に驕ることなく、人の心や情に寄り添うことの大切さも学びました。」
- 座右の銘は「日に日に新たに、新たなり」。時間を有効に使い、一日一日を悔いなく過ごすため、毎日新しい気持ちで希望をもって前に進んでいくことを説いたこの言葉を、自戒を込めて心に刻んでいるという。
- 「質実剛健でありたいとも思っています。組織においては『和衷協同』の精神を大事にしたい。素晴らしい公募団体であるためには、作品そのものが素晴らしいことはもちろんですが、良い人間関係を作ることも重要だと思っています。自分を受け入れてもらう為には、まず自身から相手を受け入れる努力が必要で、根底にそういう関係性がなければ、共に会の円滑な運営はなかなかうまくいかないものです。その点、旺玄会は昔からみんなで気持ちよく協力し合って、会務をはじめとする運営を全員で分担してきました。この気風を大切にこれからも継承していきたいと思います。今後も相手の心に沿ったコミュニケーションに重点を置き、何事も気楽に相談し連絡調整ができるような雰囲気づくりを率先する中で、旺玄会を経営していきたいと思います。」
事務局長 最賀正明先生
若手にもシニアにもできる限りのサポートを
- 会員の高齢化が進むなか、若手作家の獲得はどの団体も抱える課題だ。旺玄展では一般応募作家に対し、25歳以下は出品無料、30歳以下は半額の制度を設け、経済的な負担を軽減。サイズも10号から可能とし、意欲があれば誰でも気兼ねなく応募できる環境を整えている。
- 「美術館の大きな壁面に作品を展示して多くの人に見てもらえるという経験は、webに上げて人に見てもらうのとはまったく違うんですよ。だからこそ、ぜひ体験していただきたい。一度でもあの大空間に展示すれば、もうちょっと大きなサイズじゃないと見劣りするなということに気づき、より大きな作品づくりに挑戦するようになります。そうしてどんどん力をつけていった作家を何人も見てきました。それが公募展に出品する醍醐味だと思うので、まずは一回、出してみて欲しいですね」(最賀事務局長)
- 「旺玄会は評価が非常にフェアなので、新人であろうと作品が良ければ賞に選ばれます。受賞すれば、自分の作品が認められると共に、その賞金で今後の制作の一端を賄えます。そういう循環が、旺玄会にはできていると思います」(高桑会長)
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また、高齢や家庭の事情などにより制作を続けることが難しくなった作家に対しても、キャリアを閉ざさないためのサポートを行っている。
- 「体力的あるいは時間的に難しい方は小品でもいいですし、それも難しければ少しお休みして、復帰したいと思った時にまた一般から出品していただいてもいい。そこで評価されれば、また元の役職に戻ることも可能です。悔いのない作家人生を送っていただけるよう、でき得る限りの支援をしていきたいと考えています」(高桑会長)
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- 第91回旺玄展は5月21より上野・東京都美術館で開催される。今回から公募団体としては珍しい「デジタルアート」部門を新たに設置。見どころが増え、バラエティに富んだ作品の展観に期待が高まる。
90回記念賞 酒井真紀「纏う」版画
東京都知事賞・太田良弘「銀杏散る道」水彩
旺玄会賞・脇田裕子「慈しみて」油彩
SOMPO美術館賞・山田徹「陽の当たる場所へ」油彩
牧野賞・金子博美「flow」油彩
田澤八甲賞・藤谷絵里子「Rest in Peace」アクリル
新人賞・新井榮治「花群」アクリル
会長 高桑昌作「失われた時を求めて…」ミクストメディア
事務局長 最賀正明「いにしえ飛雲閣」版画
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