昨年(2017)の第83回旺玄展にて、毎年恒例となったギャラリートークの様子。受賞作と候補作の並ぶ佳作室で、解説に熱心に聞き入る人々。
「生涯在籍の美術大学」を標榜し、会員それぞれが自己の作品追求へと、たゆまぬ歩みを進めてきた美術団体、旺玄会。今春開催の第84回旺玄展を前に、展覧会への取り組みや思いを、代表理事の松田敬三氏にうかがった。
趣向を凝らした企画展
- 大正、昭和初期の日本画壇を率いた洋画家の一人、牧野虎雄を盟主として昭和7年(1932)に結成、翌年3月に第1回展覧会を開いた旺玄会は、良質で個性的な作風と公正な審査を特色とし、画壇の中で独自の地位を築いてきた。今年(2018)で創立86年を迎えた現在、その活動はますます活発なものとなっている。
- 「第83回旺玄展は、お陰様で一段と作品水準の向上が見られ、ご来場のお客様からも大変高く評価されました」と昨年(2017年)の模様を語るのは、旺玄会代表理事の松田敬三氏。近年の旺玄会は、通常の本展と同時に、出品者(所属作家ばかりでなく一般出品者も含む)の中から複数の作家を選抜し、テーマにそって作品を紹介する企画展を開催してきており、第83回展の企画展「わがふるさとの山河」も、予想を上回る人気を呼んだという。
- 「評価の背景として、親しみやすいテーマであったこと、全国19の支部から推薦された作家の競作であることに加え、作家の思いをキャプションに書きつづったコメントもまた、お客様の共感をいただく材料となったように思われます。小品の展示は他の会にも見られますが、多くは大作の描けない入門者に門戸を開くといった性格のものが多いなかで、大作を制作する作家が小品を通じて別の側面を披露するという方式は、見る側の興味をそそるだけでなく、作家によっても新たな挑戦目標となるので、今後も継続していきたいと考えています」と、人気の理由を分析する。
- ちなみに、今年の第84回旺玄展における企画展のテーマは、「さまざまな顔の表現」。作家それぞれの個性的な表現が生きた、顔、かお、カオ……。これまた大きな話題を提供しそうだ。
(上)第83回旺玄展会場にて、会の代表的作家の作品が並ぶ第1室。
(下左)同、大評判となった小品による企画展示「わがふるさとの山河」の企画室。
(下右)同、会場の掉尾を飾る新人室。
(左)第83回旺玄展 文部科学大臣賞 志澤保子《あの日の雲》
(右)同 旺玄会賞 飯田照美《生き抜く》
(左)第83回旺玄展 上野の森美術館賞 田内康雄《彩・楽(さい・がく)》
(右)同 ホルベイン賞 林加代子《旅の記憶》
(左)第83回旺玄展 新人賞 鈴木裕太《Lost smile》
(右)同 アーチストスペースF賞 山中弘《今、世界は何が起こるか分からない》
新人増加の背景にあるもの
- 第83回の旺玄展では、もう一つ喜ばしい現象が見られた。一般出品者の増加である。特に初めて出品する人の著しい増加が見られ、その構成も、10歳代、20歳代という若手作家の増加とともに、最高年齢は81歳までと、幅広い年齢層におよんだという。さらに最近の傾向として、出品される作品に従来の旺玄会にはなかった新しい表現が見られるようになってきており、作品ジャンルの幅が広がりつつある。「このところ美術団体全般の傾向として、高齢化、そして若年層の公募展離れが指摘されていますが、今年の旺玄展では、そうした懸念を払拭させる兆候が現れており、今後ともこの傾向を持続できるよう、努力していきたいと考えています」と松田代表理事は言う。さまざまな成果がここにきて徐々に現れている背景には、当会の、若年層から年長者まで相互に切磋琢磨する地道な努力の継続に加え、近年意欲的に打ち出してきた数々の試みも、おおいに影響しているようだ。その取り組みを見てみよう。
幅広い作品の受け入れ
- まずはインターネットを活用した、会の活動の多彩な切り口によるアピールと、応募しやすい仕組みの周知に注目したい。ホームページの新コンテンツ「絵画研究」では、絵画技法の解説「技法講座」、会員の制作所感「私の絵画制作」、そして公募に関する疑問にわかりやすく答える「絵画展に関するQ&A」の三つがあり、頻繁に更新されている。これにより公募への素朴な疑問や、旺玄会の概要、会員の作品の特色などを知りたい層に幅広く門戸を開いている。
- また、出品フォームを含むコンテンツ「公募について」では、事務局長と直接やりとりのできるメールアドレスが示されており、わからないことや不安なことを気軽に質問できる体制を整備。事務局長からのこまめで親身な回答により、出品を迷っていた人が応募を決断、みごとに賞を獲得した事例もあったという。
ホームページの「絵画研究」。多彩なメニューが頻繁に更新されている。
- 公募のシステムにおいても、若手作家に対する出品料の優遇があるほか、部門ごとの出品規定で、洋画には鉛筆や色鉛筆、日本画には水墨画、版画にはデジタルアートと、時代に即した新しい画材や絵画技法を加えている。
(左)第83回旺玄展 川端賞 木下京子《穏やかな刻-1》鉛筆 F120号
(右)同 新人賞 佐藤和美《添い寝》色鉛筆 F60号
第83回旺玄展 小花春夫《昔日の記憶が残る》デジタルアート P100号
- また第83回旺玄展より、有力な旺玄会創立会員の一人、田澤八甲(1899〜1970年)の名を冠した「田澤八甲賞」を新たな賞として設立。若手作家の発掘と育成で知られる、東京・銀座「あかね画廊」の提供によることから、50歳以下の有望作家に対する賞と位置づけ、魅力ある賞を増やすことで、次世代を担う作家の育成をはかっていく。
(左)田澤八甲《山の子供》制作年不詳
(右)1960年の田澤八甲
第83回旺玄展 田澤八甲賞 山崎良太《薫―コルク打栓機》
- そして、初入選でもよい作品と判断すれば授賞する、審査の公平性も徹底している。実際に、前回の第83回旺玄展で新人賞を受賞した鈴木裕太と佐藤和美は、いずれも初入選である。
- また、残念ながら選に漏れてしまったとしても、それきりで終わることはない。選外者には、審査責任者による出品作品への批評と、次回応募の際のアドバイスを文書で送付。手厚いフォローで、次回制作のモチベーションへとつなげている。
- このように誰もが応募しやすく、のびのびと制作できる環境づくりに取り組んでいる姿勢は、会是である「画の探求、我の調和」にも通じ、長い歴史を持つ画壇の矜持がうかがえる。
- 「昨年の第83回旺玄展で見られたさまざまな明るい傾向を、持続発展できるよう、一層の努力を傾けていきたいと考えています」と松田代表理事。5月に行われる第84回旺玄展で、活動のさらなる結実が期待される。
(取材・構成=合田真子)
(左)慎重で公正な審査。上位賞の決定には外部審査員も参加。
(右)懇親会における表彰式。いずれも第83回展のときのもの。
お話をうかがった松田敬三・旺玄会代表理事。第83回旺玄展の出品作《北山崎[Ⅰ]》を背に。
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