今年5月に第90回展を迎える旺玄会。節目となるこの展覧会では、記念行事として90年の歴史にスポットを当て、幾度とない試練を乗り越え今日に至る同会の成り立ちや精神、体制などを紹介しながら会の特徴を浮き彫りにする特別展示をはじめ、さまざまな催し物が予定されている。その具体的内容や意図について、副理事長の片山聖三氏に話をうかがった。
左:常任理事 伊藤功先生
中央:副理事長 片山聖三先生
右:事務局長 最賀正明先生
「画の探求、我の調和」の精神で、幾多の試練を克服
- 昭和7年(1932年)に「旺玄社」として誕生した「旺玄会」。その長い歴史を語る上で欠かせないのが、会の創設者である牧野虎雄の存在だ。
- 遡ること大正13年、帝国美術院展覧会(帝展)の審査員を務めていた牧野は、より自由な表現の場を創出すべく、彼を師と慕う仲間と共に「槐樹社」を立ち上げる。槐樹社は保守的な帝展では飽き足らない若い作家たちに打ってつけの発表の場となったが、路線対立により7年で解散してしまう。数か月後、槐樹社同人の熊岡美彦が仲間を引き連れ「東光会」を発足すると、触発された牧野の門下生たちが奔走し、牧野を総帥とする「旺玄社」を結成。翌年には第1回旺玄展を東京府美術館(現東京都美術館)で開催している。
- 「牧野先生は和を大切にする人で、一人ひとりが偉くなるのではなく、みんなで力を合わせて何事もできる限りを尽くす、ということを基本精神としていました。大家でありながら、非常に個性的で楽しい人でもあったので、牧野先生に心酔する者はたくさんいました。しかし先生は、『私の真似をしてはいけないよ』と常々言っていたそうです。和と同様に、個性を尊重する人だったのです」
牧野虎雄 庭の少女(中庭)油彩
- 昭和10年、当時の文部大臣が在野団体の主立った作家を帝展に吸収し、文部省の管轄下に置こうと改組を図る。この時、牧野は帝展の審査員を辞して抗議を示し、旺玄会は権力に支配されない在野の団体として活動していくと宣言し、旗幟を鮮明にした。
- 戦時中は余儀なく活動を中断されたが、昭和21には「旺玄会」と名称を改め、活動を再開する。しかしその直後、牧野が急逝。求心力のある盟主を失った組織は、主導権や方針をめぐり紛糾していく。有力な作家が次々に旺玄会を去り、「一線美術会」「新世紀美術協会」など新団体を結成。とりわけ堀田清治が「新槐樹社」を設立した際には、旺玄会は実に4割もの所属作家を失い、存続すら危ぶまれるほどの窮地に追い込まれた。
- 「人員が激減したことで運営が厳しくなり、再び軌道に乗せ、もとの規模になるまで非常に長い年月がかかりました。近年のパンデミックも大きな試練でしたが、苦境に立たされるたびに支えとなったのは、牧野先生から受け継いだ『画の探求、我の調和』の精神です。苦しい時こそ原点に立ち返り、地道な努力を怠ることなく、力を合わせて新たな発展の道を探って行く。90回展では歴史を振り返ることでその意識を高め、会の団結を深めると共に、こうした歴史があってこその旺玄会であるということを、来場者の皆さんにお伝えできればと思っています」
「高水準の画家組織」と「公明正大な運営組織」を両立
- 昭和後期から人員は順調に増え、昭和60年の第51回展では過去最大の629人を記録。会の拡大化に伴い、作品水準の向上や運営体制の整備にも注力してきた。パソコンの導入や固定事務所の設置、法人化などにより、貴重な資料の管理が徹底され、歴史を編纂できるようになったことは、今回の記念展企画の実現に少なからず寄与している。また、これまで代表委員に一任していた運営を、一般社団法人の機関構成としたことにより、負荷の個人集中を避けた公平かつ効率的なマネジメントが可能になった。
- 「法人としての組織と、画家団体としての組織。その両方を機能させるのは容易ではありませんでしたが、作家として優秀な人が多いだけでなく、ビジネスの経験があるマネジメント能力の高い人材もいたことが幸いしました。今は双方の機能がうまくマッチングしています」
- 公正性や透明性を保つためには組織の新陳代謝が大切との考えから、賞の審査は常任委員や委員だけでなく、外部から各者3年を期限とする特別審査員2名を招聘。総勢約30名により、3審査制で厳正かつ丁寧に行なわれる。視座が偏らないよう、特別審査員をそれぞれ異なる専門分野から人選している点も特徴だ。
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- 5月21日から東京都美術館で開催される第90回記念展は、こうした歴史に培われてきた旺玄会の現在を感じ取れるものとなりそうだ。特別企画として、同会の歴史と伝統を振り返るトークイベントや、若手作家を交え旺玄会の未来を考える座談会、文部科学大臣賞受賞作家や期待の若手作家による最新作の展示なども設けられ、絵画ファンにとってはさまざまな角度から同会に触れる絶好の機会になるだろう。
- 特別企画展・座談会(司会 高桑昌作常任理事)
- 2024年5月22日(水) 11:00~12:00ロビー階第17室・18室
- 第一部「旺玄会90年の歴史と伝統を振り返る」片山聖三副会長
- 第二部「座談会(旺玄会の未来を考える)」若手作家&齋藤寅彦会長
- 文部科学大臣賞受賞作家の最新作・若手作家の最新作・旺玄会90年の歴史(パネル展示とガラスケース)同会場にて
旺玄会賞 清水英子「静けし①」油彩
牧野賞 中野広子「秋のハーモニー」日本画
田澤八甲賞 酒井真紀「memento mori・光」版画
銀彩賞 清島義司「color transcends form」ミクストメディア
新人賞 堀川弘子「悲しみに花を手向ける」アクリル
新人賞 志柿ロパ 三田の夕暮れ 油彩
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