- ジャンルに捉われない多様な表現を受け入れ、日本美術の向上と発展に寄与すべく意欲的な活動を続ける旺玄会。昨年はコロナ禍のピンチに見舞われながらも新たな手法で本展を成功させ、さらにはメジャーな絵画コンクールで大賞受賞者を輩出するなど、旺玄会の存在感を示した年となった。会の活動を支える委員の伊藤功氏と、常任委員であり副会長の片山聖三氏に、昨年一年の活動を振り返りつつ、活動に込めた思いや今年の旺玄展に向けての抱負をうかがった。
(左) 片山聖三副会長
(右) 委員 伊藤 功 先生
本展を3会場に分散して実現。
大きく飛躍を遂げた作家も
――去年は、本サイトで本展への抱負を語っていただいた(File67)直後に緊急事態宣言が発令され、会場に予定されていた東京都美術館が閉館になりました。本展開催はどうされたのでしょうか?
伊藤:一昨年は中止せざるを得なかったので、去年は何とかして開催したいという斎藤会長はじめ事務局スタッフの強い思いがありました。政府も「withコロナ」で舵を切っていますし、我々もコロナの前に撤退してはいけない、と。幸い、東京都美術館に地下作業での搬入と審査だけは認めていただけたので、あとは展示会場をどうするかでした。そこで会場を名古屋、大阪、埼玉の3カ所に分けて開催することにしたんです。毎年巡回展を行っている名古屋と大阪は、会場も現地スタッフも手配できましたが、埼玉は初めて。たまたま埼玉支部が20周年の記念展で大きな会場を確保していたので、その一部を借りることで開催を実現することができました。一人1点限定ではありますが、全員の作品を展示できたっことは良かったと思っています。
――見事な対応力と行動力ですね。
- 片山:コロナの情勢を見ながら、東京都美術館で開催できる場合と、できない場合、それぞれに備えて両パターンの筋書きをシミュレーションしました。3会場で開催すると決まってからは、誰がどの会場で展示するかを割り当て、それで異存がないか400人近い出品者にハガキで確認し、返信がない人には電話して…。例年の2倍仕事をした感じです(笑)。大変でしたが無事に実現することができ、しかもどの会場も皆様から大変いい評価をいただけたことで、コロナに負けなかったという実感と自信を持つことができました。
- 伊藤:展覧会ができないと、やはり会員の士気が停滞し、会自体がシュリンクしてしまうんですよ。そうならないよう困難な局面にも立ち向かい、経済活動や美術活動をちゃんと行っていくことが基本だと考えています。なかには一年以上家に閉じこもって、絵を描く気力がなくなってしまったという作家もいます。でも元気を出して絵を描き続けて行こう、というのが我々の取り組みです。
- 片山:その一方で、家にこもっている間に自分の個性や自分自身を見直し、絵の水準を上げた作家もいます。「熊谷守一大賞展」は「小磯良平大賞展」「青木繁記念大賞公募展」と並ぶ権威ある絵画コンクールですが、去年の「熊谷守一大賞展」では旺玄会の石井好道さんが大賞を受賞し、志澤保子さんが入選を果たしました。これは大変な名誉なことです。また「鋸山美術館コンクール」でも長森雅世さんが大賞を受賞し、一昨年の山﨑良太さんに続き、2年連続で旺玄会から大賞を輩出するという快挙を達成しました。会員たちが技術を磨き、レベルアップを遂げたことは、旺玄会としての大きな財産だと思っています。
第12回熊谷守一大賞展 12/5~12/16
大賞 石井好道「廃城・夏草の賦」F50
第7鋸山美術館コンクール
大賞 長森雅世「風そよぐ...の小川」F10
(2年連続の旺玄会会員の大賞受賞)
旺玄会は生涯の学びの場。
仲間と共に画を探求したい
――5月には「第88回旺玄展」が開催されます。旺玄展といえば、会場内で開催される企画展も毎年話題ですが、今年はどんなテーマなのでしょうか?
- 片山:「火」です。ここ数年テーマは、古代ギリシャの哲学者たちが万物の根源として唱えた四大元素「大地」「風」「水」「火」から設けていて、昨年は「水」でした。そして今年は「火」。コロナ禍で耐えた思いを炎に変え、コロナを焼き尽くしたいという思いを込めました。
- 企画展は「展覧会の中のもう一つの展覧会」という位置づけで、旺玄会の大きな特色と言えます。作家は本部と各支部から推薦で選ばれ、今年は45名が挑戦します。サイズが10~20号と小さく、大きい絵と小さい絵とでは表現の仕方が違うので、同一作家でも本展の大作とはまったく異なる一面が見られるんですよ。テーマを与えられることによって作家自身の研鑽になり、お客様の楽しみにもつながるので、今後も続けて行こうと思っています。
石垣伊佐子「喜びの日(初聖体)」
小野寺有子「2021迎え火・弟」
栗原敏雄「火焔光背」
清水純「火 焔」
服部倫子「みつめる」
米澤眞理子「祈り」
伊藤:旺玄会の会是は「画の探求、我の調和」ですから、まさに「画の探求」ですね。「我の調和」はなかなか難しいことですが、旺玄会はひとつの傾向を押し付けるようなことはないですし、派閥もありません。それは私が20年近く前に入会した時から変わらない、旺玄会の魅力だと思っています。ある方に「展覧会の絵を見ていると、それぞれの作家が自分自身を主張しているのを感じる」と言われたことがあるんですが、旺玄会の本質を捉えた一番の誉め言葉かなと思いますね。
――作品のジャンルも幅広く、バラエティに富んでいますね。
片山:作家一人ひとりの個性を尊重していますので。我々は、時代のトレンドに左右される作品よりも、作家自身の感動や感じているものを表現し、見ている人の共感を得るというコミュニケーションを大切にしています。見る人が絵の前に立った時に、作品の後ろにその作家が見えるような絵を描こうというのが、我々の基本姿勢なんですよ。ですから、展覧会を観ていただくとわかると思いますが、旺玄会の絵は抽象も含めて、わけのわからない絵というのはないはずです。力の差はあっても、どれも一生懸命描いた、自分がこうしたいと思うものを表現したんだということが伝わってくる絵だと思います。
――会としての今後の抱負を教えてください。
- 伊藤:旺玄会は、絵画制作に特化した「生涯教育の美術大学」を標榜しています。片山さんもよくおっしゃっていますが、この世界では、「60歳は若すぎる、70歳はまだまだ、80歳はますます」と言うんですよ。それだけ画の探求は奥が深いので、たくさんの仲間と一生かけて共に学び、一緒に成長していきたいですね。
- 片山:若手の作家にもどんどん活躍していただき、いつか旺玄会の生みの親である牧野虎雄先生のような求心力のある作家が現れてくれると、ますます活気のある面白い会になるのではないかと期待しています。
(文・構成=杉瀬由希)
- 2021年の主な活動
- 齋藤寅彦会長個展2021年11月8日~11月13日
- ギャラリーラリームサシ会場にて
- 銀座ギャラリームサシの企画による齋藤寅彦個展
- モチーフと時間をかけて語り合い、そこから生まれた作品群。斎藤会長の人柄が、作品ににじみ出ていました。
●神奈川支部展 11月16日~11月22日横浜市民ギャラリー
旺玄会神奈川支部展審査風景(11/16~11/22)横浜市民ギャラリー
コロナ禍厳しい人数制限の元で、搬入、審査、受賞式が実施された
●2021年受賞作家選抜展 2021年11月22日~28日 あかね画廊
●女流展 2021年11月22日~27日
女流展顔合わせ会 感染対策を強化し行われた
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