今年5月の「三軌展」で第70回の節目を迎える三軌会。歴史のある同会が昨年から新たな試みとして取り組んでいるのが「サムシングアート美術展」だ。本展とは趣を異にするこの展覧会は、どのような趣旨で始まったのか。昨年11月に横浜市郊外のギャラリーで9日間にわたり開催された第1回展を訪ね、三軌会代表・平和夫、絵画部部長・山崎巨延、事務局長・小澤茂の3氏にお話をうかがった。
「三軌会サムシングアート美術展」の展示風景。一般出品も多数あり、ジャンルも多様だ
会場の奥には茶室の空間がひろがる。その茶室で会期中の週末に開催した講演会は盛況であった
気軽に、のびやかに制作・展示を楽しむ
「サムシングアート美術展」
- 水田と山林に囲まれた晩秋の田園風景が美しい、横浜市青葉区の「寺家ふるさと村」。その一角にあるギャラリー「木瓜の里」が「三軌会サムシングアート美術展」の会場だ。小さな落ち着いた木造の空間には絵画、工芸、彫刻、写真の4ジャンルから、三軌展の会員・会友および一般を含む23名の作家によるバラエティに富んだ作品が展示され、規模以上の見ごたえがある。毎年「三軌展」を開催している国立新美術館とは規模も立地も対照的なこの土地を、記念すべき第1回展の会場に選んだ理由を、三軌会代表の平和夫氏はこう語る。
- 「国立新美術館で展示するとなると、それなりに大作をつくらなければならないので、どうしても構えてしまうんですよ。それはそれで意義のあることですが、もっと気軽につくって、息抜きで出品できるような場があってもいい。この会場は事務局長がたまたま近くに住んでいる縁で決めましたが、都心のギャラリーで行う展覧会とは一味違う、この土地の素朴で気持ちのいい風景にマッチした作品が揃いました。普段は彫刻作品をつくっている作家が絵を出品していたり、本展では見られないような作品に出合えるのもこの展覧会の面白さだと思います」
三軌会代表の平和夫氏
- ぶらりと立ち寄る地元の人や、ギャラリーに併設された食事処で一服がてらに展示を見ていく人など、来場客は想像以上に多い。それというのも「寺家ふるさと村」には他にも陶芸舎や木工舎、カフェを併設した貸しギャラリーなどのアートスポットが点在しており、散策しながらさまざまなアートが楽しめる工夫が村全体でなされているのだ。ひとつの点で終わらない、つながりを生み出していく魅力的な環境が開催の決め手となった。
寺家では陶芸や絵本作家の展示が行われていた。豊かな自然を感じながらアートにふれることができるのが魅力だ
若手作家に「自分の作品が売れる」体験を
- 「サムシングアート美術展」の特徴の一つは、展示販売のスタイルをとっていることだ。本来、公募団体は会費以外の収益を求めることはできない。そこで販売を可能にするため、実行委員会らがその仕組みづくり(新賛助会員制度「三軌会サムシングアートクラブ」)に奔走した。
- 「三軌会サムシングアートクラブは、同人ならびに一般の方も参加できる会員制度ですので、美術講習会や講演会へ参加したり、同人は協力会社を通じて作品の販売や貸付ができ、かつ新賛助会員は優待価格で作品が購入できる制度となっています。今回はサイズ、価格ともに手ごろな作品が多く、双方にとって売買しやすいサムシングアート美術展になったと思います。」(事務局長・小澤茂氏)
- このシステムが、特に若手作家にとって有益に機能すればと語るのは、絵画部部長の山崎巨延氏だ。
- 「昔は好景気で絵が売れたので、作家は経済的な安定を得ることができました。でも今はそういう時代じゃない。特にキャリアが短い若い人は仕事で精一杯いっぱいで、つくりたくてもその暇がない人が多いんです。そういう作家たちに、少しでも制作を続けていける環境を提供したい。単に収入になるというだけでなく、自分の作品が商品になり、売れるという体験自体が、作家にとっては貴重なのです」
(左)事務局長の小澤茂氏
(右)絵画部部長の山崎巨延氏
2019年から新たに始まる「ブリリアント展」とは
- この「サムシングアート美術展」以外に三軌会では、もうひとつ新しい展覧会を発足する。2019年2月に上野・東京都美術館で第1回目を開催予定の「ブリリアント展」だ。国立新美術館とは環境も規模も客層も異なる東京都美術館で、どんな展示をしていくか。これから半年かけてじっくり企画を練り、本展ともサムシングアート美術展とも異なるベクトルで、三軌会としての多様性を広げていきたいと平氏は抱負を語る。
- 「上野は芸術のメッカですから、いろいろな試みができるのではないかと思っています。価値観も手法も多様化している作品に対し、ブリリアント展としての審査基準をどこに置くかなど、頭の痛い課題はたくさんありますが(笑)、作品も展覧会自体の表現も本展とはだいぶ違うものになると思いますので、新たな三軌会の姿にご期待ください」
(取材・構成=杉瀬由希)
(左)川島信一 《時・かたる》 絵画部 第69回三軌会賞
(右)倉田久美子 《穏やかな会話》 工芸部 第69回三軌会賞
(左)飯田祐弘 《遠い海鳴り》 写真部 第69回三軌会賞
(右)猪田斎 《菜花につつまれ》 絵画部 第69回損保ジャパン日本興亜美術財団賞
(左)土屋治彦 《風 卵》 絵画部 第69回会員優賞
(右)釘谷洋子 《温まれる》 絵画部 第69回会友優賞
小川龍男《眼光炯々》 彫刻部 第69回会友優賞
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