artkoubo MAGAZINE
artkoubo MAGAZINE

[File43] 太平洋美術会
才能ある若手の成長が会全体を活性化する

2018/2/20 ※更新2022/7/7

(左)本田ゆか 《なにもない休日》油彩画 F100 2016年作品 第112回 太平洋展 一般努力賞

(右)斉藤 ゆり子 《現代版かぶきもの》油彩画 F50 2017年作品 第113回 太平洋展

明治35年に前身の太平洋画会が創設されて以来、116年に及ぶ歴史の中で、ベテランから若手へと知識やスキルを伝承しながら、絶えず組織の活性化と新陳代謝を続けてきた太平洋美術会。長年にわたり会を支えてきた会員の佐田昌治、鈴木勝昭、鈴木國男、期待の若手会友 本田ゆか、斉藤ゆり子の5氏に、会の特徴や入会の経緯、制作などについてお話をうかがった。
お話をうかがった5名。左から、鈴木國男、本田ゆか、佐田昌治、斉藤ゆり子、鈴木勝昭。
出品・入会が大作にチャレンジするきっかけに
— 本田さんと斉藤さんは、どういう経緯で太平洋美術会に入られたのですか?
鈴木勝昭:二人とも横浜のアートスクールという美術学校で絵を勉強していたんですよ。私も長年そこに通っているんですが、弱冠15歳で入学してきたのが斉藤さんで、見ていたら非常に上達が早い。これは将来有望な逸材だと思い、当会に勧誘したんです。
斉藤:6年前ですね。当時は千葉の館山に住んでいたんですが、地元の学校にたまたまアートスクールの先生と同じ学校を出た方がいて、「そんなに絵が好きなら、今ちょうど、そのアートスクールの先生の個展が関内で開催されているから見てきたら?」と勧められたのがきっかけでした。見に行ったら、感動して絵の前から3時間くらい動けなくなってしまったんです。「この先生に教わりたい!」と思い、館山から横浜のアートスクールまで習いに通うようになりました。
本田:私は社会人になってから美術を勉強したいと思い、大阪芸術大学の通信教育で絵を学んだのが最初です。そこで同じ志を持つ人たちと知り合い、東京にも芸術つながりの人脈ができたこともあり、卒業後は横浜のアートスクールで人物画を専門に学びました。そこで知り合った中の一人が太平洋美術会の方だったんです。その方から「一度出品してみたら?」と勧められ、神奈川支部展に出品したのが太平洋美術会との縁の始まりです。会に入ったら、アートスクールでご一緒の鈴木さんがいらっしゃったので驚きました(笑)
鈴木國男:そういう縁を、太平洋美術会はとても大事にしているんです。もともと当会には新しい人たちを大事に育成する気風がありますし、縁を大切にすることによって、入会した後も気持ちよく参加・出品できる。そういう流れができるんですよ。
— アートスクールで勉強されていた時と比べ、入会してから制作や心境に変化はありましたか?
斉藤:初めて出品した時は、本展の「20号コーナー」だったんですが、鈴木(勝昭)さんから「次回は50号で出してみたら?」と勧めていただき、徐々に大作に挑戦するようになりました。最初は自信がなかったんですが、大きいサイズで描くと、小さい画面とは違う世界観が広がるんですよね。それを体得できたことが自分にとっては大きな変化で、会に参加したことによって、もっとチャレンジしてみようという気持ちになれました。
本田:画面が大きいと大胆になれるんですよね。私は初めての出品は太平洋美術会の神奈川支部展で、その時は20号だったんですが、その翌年に本展に100号で出品しました。こういう機会がなければ100号という大作にはなかなかなか取り組めなかったと思いますし、出品することにより、いろいろな方に見ていただき、評価をいただけるので、それがとても励みになります。
斉藤:たくさんの方の作品と一緒に自分の絵が並ぶんだと思うと、描く気持ちも変わってきますね。出品すると、他の作家との絵のつながりもできますし、いろいろな側面から自分がレベルアップできている実感があります。
原点は幼少期ののびやかな落書き体験
— 昨年、本田さんは神奈川県知事賞、斉藤さんは横浜市長賞をそれぞれ受賞されていますね。
佐田:どちらも神奈川県に住む者としては非常に名誉な賞です。今の若い人は、みんなかなりのテクニックを持っていますし、本田さんも斉藤さんも基礎をきちんと学んでいるから、こういうしっかりした絵が描けるんですよ。お二人の作品を見ても、女性は男性よりもダイナミックな絵を描きますね。そこが魅力でもある。
鈴木國男:男のほうが小さくまとまりがちですよね。どうしても細かくなってしまう(笑)。
佐田:本田さんの絵は、単に美しいだけじゃなくて、強烈なインパクトがある。そういう意味では男性的なところがあるのかもしれないけど、非常に印象に残る絵ですね。斉藤さんは若いから、世界観はまだ浅いけど、その分すごく大胆なんだよね。そこが面白い。
鈴木勝昭:どちらも相当伸びしろがあるので、先が楽しみですね。二人が絵に目覚めたのはいつ頃ですか?
本田:自分では記憶はないんですが、2歳頃まで住んでいた東京の家で、母がカレンダーの裏を壁にたくさん貼って、そこに落書きをさせてくれていたらしいんです。本当に自由に描かせてくれたので、物心ついた時にはお絵描きが大好きでした。
斉藤:私はもともと長野の御岳山の麓の村で生まれて、そこで築100年を超える古い家に住んでいたんです。母が床に新聞紙を敷き詰めて「この中で絵を描きなさい」と言われるんですが、気が付くとそんな範囲はとっくにはみ出し、箪笥の上まで筆ペンで描いちゃって。でも母は怒るどころか、今でもその頃の絵を大事にとっておいてくれているんですよ。冬になると真っ白な雪の上に絵の具で絵を描かせてくれたりもしました。
一同:雪の上に!それは面白そうですね。
斉藤:母が陶芸をやっていたので、器に模様をつける霧吹きのような道具に絵の具を入れ、雪の上に吹き付けていろいろな絵を描くんです。それがすごく楽しくて。兄も陶芸や造形制作をするんですが、私の絵を見て、造形の目線からアドバイスをくれたりしていたので、そういう経験などから絵は楽しいものだと幼い頃から思っていました。
会を挙げて若手作家の育成を応援
大平洋美術会研究所のアトリエ。絵画だけではなく、彫刻・版画・クロッキーなど多彩な講座を設けている。
— 太平洋美術会の特徴はどんなところにあると思いますか?
佐田:伝統的と言いながら、かなり変わり種が多いですね(笑)。靉光(あいみつ)、松本竣介、有本利夫、松井ヨシアキらは、どこかの美術大学みたいに、お行儀のいいアカデミックなピラミッドの頂点をめざす作家とちがい、枠からはみ出して、活躍するような面白い作家が生まれるところですよ。先ほど齊藤さんが館山から横浜まで絵を習いに行ったと言っていましたが、この会にはそういう根性や情熱をもった作家が昔から多いんですよ。
鈴木國男:若手を育てる土壌も昔からありますね。特に最近は若い作家の出品を応援するため、25歳以下は出品料を約半額の6500円に引き下げるなど、少しでも経済的負担を減らす工夫もしています。ジャンルも絵画、彫刻、版画、染色の4部門あるので、ぜひ出品していただきたいですね。
佐田:審査も非常に公平ですからね。
本田:本展は会場が国立新美術館なので、それもモチベーションにつながっています。堂々と人に見に来てと言えますし。
鈴木勝昭:僕らも若い人の作品を見ると刺激になるんですよ。若い人の作品は立ち向かってくる気持ちが強いから、教え甲斐もある。将来、本田さんや斉藤さんのような若い人が、これからの太平洋美術会の中核になるよう頑張ってもらいたいし、そのためにできることは皆でサポートする。それが太平洋美術会だと思います。
太平洋美術会研究所のアトリエ。
(テキスト・構成=杉瀬由希)
本田ゆか
  • プロフィール
  • 1968年、東京都生まれ。2008年、大阪芸術大学通信教育部美術学科(絵画コース)卒業。その後、関内アートスクールにて人物画を専門に学ぶ。第57回太平洋神奈川展初出展 新人賞、第111回太平洋展 佳作(船岡賞)、第112回太平洋展 一般努力賞、会友推挙、第60回太平洋神奈川展 神奈川県知事賞。
斉藤ゆり子
  • プロフィール
  • 1996年、長野県生まれ。中学在学中の2011年より関内アートスクールにて人物画を学ぶ。2014年、第110回太平洋展20号コーナーにて初出展。第112回太平洋展 会友推挙、第59回太平洋神奈川展 新人賞、2017年第60回太平洋神奈川展 横浜市長賞。2017年ごんばちギャラリーにて兄妹2人展開催。
  • 第113回 太平洋展受賞作より
西村純子《パンドラ(ラフレシア)》絵画部 第113回展 東京都知事賞
兼忠志《氷柱・STOP温暖化》絵画部 第113回展 損保ジャパン日本興亜美術財団賞
工藤みつ子《きぼう》彫刻部 第113回展 文部科学大臣賞
和田ヤス子《季の移り》版画部 第113回展 会員秀作賞
白鳥浩子《誕生》染織部 第113回展 会員秀作賞
綿引秀子《旅の想い出Ⅰ》絵画部 第113回展 荒川区長賞
公募情報
太平洋美術会
第114回太平洋展 ※終了致しました。
  • 日程
  • 2018年05月16日(水)~2018年05月28日(月) ※22日(火)休館
  • 会場
  • 国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)
  • 巡回
  • 福岡・大阪・名古屋・神奈川・千葉
  • 種類
  • 自作未発表の油彩、水彩、版画、彫刻、染織作品。
  • 点数
  • 各種別とも点数制限なし。
  • 作品の大きさ
  • 油彩(30号以上500号まで)、水彩(30号以上80号まで)、版画・染織は特に制限しないが壁面に耐えられる大きさとし、彫刻は美術館規定による。額装のガラスは不可(アクリルは可)。
  • なお、一般者のみ対象として、油彩・水彩・パステルなどで「20号限定サイズ作品」を募集。
  • 搬入日時
  • 2018年05月07日(月) 10:00~15:00
  • 出 品 料
  • 各種別とも一部門につき2点まで一般は11,500円、会員・会友は13,500円(カラー図録代・送料含む)。会員・会友・一般とも1点増すごとに2,000円加算。
  • ●25歳以下:4部門 出品料2点まで半額6,500円。
  • ※その他詳細は、太平洋美術会ホームページ参照。

114回展の太平洋展のリーフレット

ART公募内公募情報 https://www.artkoubo.jp/taiheiyobijutsu/
団体問合せ
当サイトに掲載されている個々の情報(文字、写真、イラスト等)は編集著作権物として著作権の対象となっています。無断で複製・転載することは、法律で禁止されております。

アート公募姉妹サイト PR