数々の特徴ある展覧会を開催し、着実に出品者数を増やし続けている近代日本美術協会。新型コロナウイルス感染防止対策で行動が制限される今年は、“遠隔”をキーワードに導入した新たな試みが好評だ。また同会を代表する展覧会のひとつ「地展」においても、28年の歴史の中で初となるユニークな公募にチャレンジする。その内容について、理事長・渡邉祥行、事務局長・粟嶋美幸の両氏にうかがった。
左から理事長・渡邉祥行、事務局長・粟嶋美幸
展示作品がリアルタイムで楽しめる「webギャラリー」開始
- 近代日本美術協会が年2回開催する「全国サムホール展」の第25回展が、8月に東京・有楽町で行われた。新型コロナウイルス感染症の影響を受け、美術公募展も運営・展示の方針が問われるなか、同会が今回から新たに導入したのが「web投票」と「webギャラリー」だ。従来は、賞の選定は会場で募った投票の結果をもとに行われ、展示作品は会期後にHPなどで公開していたが、今回か展覧会初日のオープンと同時にHP内のwebギャラリーで全作品を公開し、その画面から投票やオークションの参加ができる方式を採用。これが好評を呼んでいる。
- 「北海道から九州まで全国各地から出品していただいているので、会場に足を運べない方も遠方の方も多いんです。そういう方は、展覧会が終わるまで展示作品を見ることができず、投票にも参加できないのが現状でした。それが、展覧会と並行してリアルタイムで全作品を見られるようになり、投票も皆が公平にできるようになった。これは大きな利点だと思います」(粟嶋さん)
- 「webにしてから投票者の数がかなり増えました。海外からのアクセスもあり、購入してくれる方もいるんですよ。サムホールなので価格も手ごろですし、飾った空間をイメージしやすいのかもしれませんね。もちろん実物を見てもらえるに越したことはありませんが、国内外の方に広く見てもらえるという点では、webは非常に効果があることがわかりました」(渡邉先生)
全国サムホール展内容
サムホール展会場風景
- また、同会所属の精鋭作家による「全国みずべの絵画展」も同時開催。昨年からスタートしたこの展覧会は、あえてテーマを設定することにより、そのテーマを得意とする作家のモチベーションを高め、活躍の場を提供することを目的としている。そのため、今後は「みずべ」に限定せず、いろいろなテーマを設けて展開していく予定だ。
第25回全国サムホール公募展大賞 「白い薔薇はお好き?」(コーヒー画) 藤田 誠治(千葉県)
優秀賞「夕映えの雲」油彩 岡 孝敏(愛媛県)
(左)「Crossing at night」(水彩) 亀崎 敏郎(愛知県)
(右)「凛として」水彩 高戸 章(東京都)
全国みずべの絵画展会場
初の「黒板アート」作品も。進化する『地展』の魅力
- 近代日本美術協会の活動の中でも特徴的なのが、全国各地の自治体と連携し、地域の魅力ある風物を描き、その地で作品を展示する「地展」だ。「自分のために描くだけでなく、地域やそこに暮らす人たちに喜んでいただける活動を」と始めたのが、今から28年前。愛媛県別子山村(現新居浜村)を皮切りに、県内の30近い市町村や、五箇山を擁する富山県南砺市、熊本県人吉市、千葉県館山市、岐阜県壬生市など各地を、毎回100名を超える作家たちが訪れ、画家の目で地域の新たな魅力を発掘してきた。作家にとっては新たな制作モチーフを見つけるきっかけになり、地域住民との交流はもちろん、誰でも自由に参加できることから、会を超えて作家同士が親交を深める貴重な機会でもある。
- 次回(来年)の舞台は、香川県善通寺市。弘法大師空海誕生の地として知られる善通寺市は、黒板の産地でもあり、近年は町おこしの一環として「黒板アート」のイベントも盛んに行われ、衆目を集めている。そこで「地展」でも、通常の絵画平面部門に加え、特別に黒板アート部門を設けることに。公募展多しといえども、黒板アートを取り上げるのは非常に珍しい。特に耐久性の高い絵具使用による黒板アート展は全国初の試み。これも各地域の風土や歴史、文化に立脚した「地展」ならではの試みだ。
- 「昨年、瀬戸内国際芸術祭2019の関連イベントとして開催された、学生対象の黒板アートコンテスト『ZENTSUJI BLACK BOARD ART 2019』に監修として携わり、手応えを得たことで地展での導入実現に至りました。黒板は材質がいろいろあるんです。作品は一定期間、屋外に展示するので、耐久性を高めるにはどんな材質の黒板と画材の組み合わせがいいのか、黒板のサンプルを何種類も取り寄せていろいろ実験しました」(渡邉先生)
- 他の画壇からも著名な作家が参加し、黒板アートに挑戦するというから見どころは尽きない。
黒板アート「未来へ進む善通寺」Serious guys
- 来年の地展を前に、今秋11月には例年通り、上野・東京都美術館での「近代日本美術協会展」を控えている。年に一度の集大成ともいうべき本展、こちらも併せて注目したい。
(文・構成=杉瀬由希)
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