「近代日本美術協会展」「サムホール展」「地展」を三本柱に、特徴ある多彩な活動を展開する近代日本美術協会。その中から地域を描く美術展「地展」に焦点を当て、地域と連携した独自の取り組みを紹介する。
第31回地展「愛媛県砥部町を描く絵画展」(2016年)会場風景 愛媛県美術館南館
地域の魅力を美術家の眼で発掘
- 「地展」は、近代日本美術協会が中心となって運営するNPO法人 地域美術展協会が全国各地の自治体と連携し、その地域の自然や町並みを描く、町おこしを目的とした絵画展だ。平成4年に愛媛県別子山村(現新居浜市)で開催したのを皮切りに、毎年四季折々にさまざまな地を訪れ、今年で32回を迎える。初回から地展を率いる同協会理事長の渡辺祥行は、絵筆を通じたボランティア活動の意図をこう語る。
- 「絵は自分のために描く人が多いけれど、せっかく絵を描く力があるなら、それを社会に役立てられないかと考えたのがきっかけです。絵を通じて社会とつながりを持ち、社会に貢献しているという自負心を持ってほしい。日本美術発展のためとか、そういう大そうなことよりは、もっと身近なところで手軽に人に喜んでもらえればと思ったのです」
- とっかかりとして渡辺の出身地である愛媛県を重点的にテーマ地として選定してきたが、回を重ねるにつれ県外の自治体とも縁が生まれ、近年は富山、熊本、大分、千葉、栃木などでも開催。多くの人に地域の魅力に触れる機会を提供したいと、会員作品以外に一般からも公募し、子供も含め全国から幅広い層のバライエティに富んだ作品が集まり会場を訪れる人たちの目を楽しませている。
- 「絵は、写真のようにありのままを写すのではなく、描き手が伝えたいことをメインに構成することができる。同じ風景を描いても一人ひとり異なる“情景”になるので、普段見慣れている景色がこんなに新鮮に見えるなんて、と地元の人たちが驚くんですよ」
(左)第23回地展 「富山県五箇山を描く絵画展」(2012年) 地展大賞《五箇山の思い出》渡邊敏夫
(右)第25回地展 「熊本県人吉を描く絵画展」(2013年) 地展大賞《旅人を待つ》川邉政也
(左)第26回地展 「大分県臼杵を描く絵画展」(2014年) 地展大賞《ひとやすみ》岩田令子
(右)第27回地展 「南房総たてやまを描く絵画展」(2014年) 地展大賞《春望》及川わか
(左)第29回「栃木県壬生町を描く絵画展」(2015年) 地展大賞《おもちゃのまち》小川賀子
(右)第30回記念地展「鬼北町を描く絵画展」(2015年) 地展大賞 《豊穣の祈り》川谷義行
絵を通じて仲間をつくる
- 参加者は毎回全国から集まり、多い時には100人を超える。開催地に着くと、まず観光バスで町の職員に地域を一通り案内してもらい、銘々が気に入った場所でスケッチ。その様子に興味を持って話しかけてくる住民も多く、そうした地元の人々とのふれあいも楽しみのひとつだ。また、旅を通じ美術愛好家同士が交流を持つ意義も大きい。
- 「夜は宿泊先で批評会を行うのですが、日頃みんな一人で描いているので、他人からの客観的な意見は貴重なんですよ。そのつながりがだんだん輪になって、仲間ができる。好きなことを通じて仲間ができると、楽しみも広がりますからね」
- 絵をアカデミックな芸術としてストイックに追求するよりも、描くことの楽しさを大切にしてほしいという渡辺の思いは、そのまま近代日本美術協会や地域美術展協会の基本理念に通じる。今後は愛媛県上島町、愛媛県松前町(まさきちょう)がすでに開催地として決定しており、「描くのが好きな人なら誰でも大歓迎です。その地に来て、見て、知ってもらい、町をPRしてほしい」と呼びかける。小さな町の知られざる美しい景色に出会えるスケッチの旅、ぜひ一度参加してみてはいかがだろうか。
(取材・構成=杉瀬由希)
第29回地展「栃木県壬生町を描く絵画展」(2015年)スケッチ会の様子
第31回地展「愛媛県砥部町を描く絵画展」(2016年)のスケッチ会の様子
(左)話を聞いた理事長の渡辺祥行。2017年2月に東京都美術館で開催された日本近代美術協会主催「近美関東美術展」の自作の前で
(右)「近美関東美術展」会場風景
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