「地展」の名で親しまれる「地域を描く美術展」は、近代日本美術協会の渡邉洋行理事長が代表を務めるNPO法人地域美術展協会が主催し、地域と連携して開催する全国公募展だ。30年を超える実績を持ち、今年2月に開催された第37回展では、通常の「絵画平面部門」に加え、「黒板アート部門」という新ジャンルに挑戦して注目された。その取り組みを紹介しよう。
初の試み「黒板アート展」を2年越しで開催
- 「絵を描く力を、自分の楽しみだけでなく、社会のために生かそう!」
- 「地展」は、主催するNPO法人地域美術展協会の代表であり、近代日本美術協会の理事長である渡邉洋行氏の呼びかけに、賛同した作家が画壇や流派の枠を超えて集まり、その輪を広げてきた公募展だ。絵筆を通じて地域の豊かな自然や歴史、文化を掘り起こし、地域の活性化や芸術文化の振興に資することを目的に掲げ、これまでに拠点の愛媛県を中心に、富山県、熊本県、大分県、千葉県、栃木県などさまざまな土地を舞台に開催。作家の目で切り取られた多種多様な風物の絵は、多くの地元住民や旅行客の目を楽しませてきた。
- 第37回展の舞台に選ばれたのは、弘法大師空海誕生の地として知られる香川県善通寺市。市内に本社と工場を構える老舗の黒板メーカーが地域の文化振興に熱心であり、さらに市も地域産業の黒板を生かした観光集客や話題づくりに意欲的であったことから、地展の目指す社会貢献のひとつとして実現したのが、地展初の「黒板アート展」だ。全国の現役作家を対象に、会期終了後も固定で長期間展示可能な黒板アートを募集し、美術評論家・設樂昌弘氏の協力のもとに作家の募集や選定を行った。
- 「制作にあたっては、スケッチ会の開催をはじめとして地展と市が協力し、作家の誘致や情報の提供を行いました。またスケッチ会の開催においては密を避けるため、1回の参加人数を極力減らして全4回の実施とするなど、細心の注意を払いました。実はこの黒板アート展は、2019年から企画がスタートし、去年3月の実施を予定していたんです。それが新型コロナウイルス感染症の影響により延期となり、結果的に2度の会期変更を経て、今年2月にようやく開催することができました。作家たちもこの日を信じて、できる限り安全な時期に何度か現地に足を運び、取材や制作を続けてきました。一堂に集まることが難しい中で、事務局としても速やかな情報提示に努めました」(事務局・粟嶋美幸氏)
次なる舞台は、四国を見守る霊峰「石鎚山」
- 満を持して開催された「黒板アート展」には、さまざまなジャンルの作家の創作39点が集結。市の玄関口となるJR善通寺駅のホームや駅前、今年完成した新市庁舎、善通寺のシンボル「五重塔」や自衛隊の「赤煉瓦倉庫」が一望できる市民憩いの散策コースなど、市内の要所に展示され、創意工夫を凝らした作品がまちを彩った。訪れた人が楽しみながら散策できるよう、黒板アートが見られるスポットを紹介するマップを配布し、黒板アートを説明したボードも設置するなど、きめ細やかなフォローも奏功し、現在も評判を呼んでいる。
- もう一つの部門「絵画平面」には全国から145点の作品が寄せられ、展示は重要文化財「旧善通寺偕行社」を会場に行われた。弘法大師空海が誕生した善通寺をモチーフにした作品を筆頭に、市の魅力を伝えようとする作家の熱意が伝わる力作が並び、大賞には奥田美晴氏の『祈り』が選ばれた。
絵画平面部門
絵画平面大賞 奥田晴美「祈り」
重要文化財 旧善通寺偕行社
会場内
- 「今回の黒板アートへのチャレンジは、新たなジャンルへの可能性を知るきっかけになり、企画する側としても、また作家としても、大きな刺激を受けました。今年10月に予定されている第38回地展は、西日本最高峰の石鎚山を題材とした『霊峰石鎚・神の杜を描く絵画展』です。風景としての石鎚山を描くことのみでなく、『霊峰』というイメージが感じられることが大切であることから、これも新たなチャレンジの一つになるのではないかと考えています」(粟嶋氏)
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- 「地展」は今後も全国各地を題材地として活動する予定なので、興味のある人はぜひ問い合わせを。
(文・構成=杉瀬由希)
黒板アート風景
善通寺駅ホーム
新庁舎内の黒板展示風景
ゆうゆうロード
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