9月28日~10月5日に、東京都美術館にて「2024汎美秋季展」が開催された。
主催する汎美術協会は戦前の1933年、美術界にも官展を頂点に権力機構が整備・強化され、戦争へと向かい出した時代に、自由な発表の場の創設を目指して創立された(設立時は「新興独立美術協会」、1946年に汎美術協会と改称)。フランスの「アンデパンダン展」に学び、すべての作家は平等であるとの考えから、作品は、審査されることなく出品・展示される。相対的な評価を行わないので、賞の授与も行わないその理念は現在も受け継がれている。
今年秋季展には、80名を超える作家が出品し、油彩、水彩、立体やパフォーマンスなど、ユニークで多彩な作品が東京都美術館の壁を飾った。
また、今年6月にベルギー・ブリュッセルで開催された「汎美ベルギー展」の報告コーナーも設けられ、ポスターや写真や映像が展示された。
駐ベルギー日本大使館の後援を受け、その地区の文化事業として開催されたという事で、地区の人からも歓迎され、大成功の展覧会だったとのこと。
今回の秋季展について、代表の中西祥司氏、会員で、汎美ベルギー展にも参加した青染レイコ氏に話を伺った。
―ジャンルに捉われない多彩な作品が出品され、また、若い作家の健闘も目立ったように感じました。
- (中西)そうですね。定義づけられないのが現代美術と言われているように、様々な作品が出品され展示されることを期待してます。現代美術のエッセンスが詰まった展覧会になれば良いと考えています。
- 若い作家の出品も増えてきていて、会場も若やいで活気づいてきたように思います。これまでも若い作家がチャレンジしやすい環境を作りの工夫をしてきました。出品料を半額にするとか。汎美展は壁面5mの幅までの作品を出品できるのですが、経験少ない作家にとっては途方もない大きさで、尻込みされることが多いのですが、その解決策として小品コーナーを設置しました。20代の作家が数人出品していて、良い方向に進みだしたのではと思います。大ベテランにも最後の最後、墓場に入るまで出品して欲しいという狙いもあります。(笑い)東京都美術館や国立新美術館で開催されている展覧会に出品できることを知らない作家も多いので、もっとアピールしていく必要も感じています。
―今回の展示で、何かこだわった点はありますか?
- (中西)今回という事ではないのですが、これからもっと汎美ファンを増やしていきたい、出品作家予備軍を増やしていきたいと考えています。ファンの裾野を広げるような多様な多彩な展覧会になるよう心掛けています。出品者だけで作品の前で語る会を開催し、遠慮なくディスカッションする機会を設けたり、入場者も参加できるギャラリートークを開催し、切磋琢磨で成長することを期待しています。多摩美大絵画科の堀浩哉名誉教授の講評会を開催しています。それぞれの作家の現在地から一歩でも二歩でも先に進んで欲しい、そういう狙いで実施しています。作家の成長に役立つと同時に周りで聞いている作家や一般の方々にとっても美術のことが分かり易く解説されていて面白いと評判です。
- 作家は勿論、来場者の皆様にも汎美や作家に興味を持ち理解を深めてもらえるような機会にこの展覧会がなるといいなと思って試行錯誤しています。
- また、初めての試みとして6月に海外展をベルギーでを開催したので、その報告会も会場内で行いました。
- 今後、もっとユニークで面白い展覧会を企画したいと考えています。例えば最近作だけでなく作品だけでなく、過去の作品も展示して、作家の変遷が分かる展示とか、個展スペースを用意し、今の展示条件を超えた作品を出品できるようにしたり、工夫していきたいと考えています。
■大成功だった汎美ベルギー展―海外展を開催する団体は珍しいし、いろいろ大変だったのではと思いますが
- (中西)ある展覧会で知り合ったベルギー人作家を汎美に誘って出品しているのですが、雑談から「ぜひベルギーで展覧会をやろう」という話しになりました。2020年の6月に開催が決まり、出品作家や友人含め15人ぐらいが航空機や宿も抑え、行くばかりになっていたのですが、コロナで航空機が飛ばなくなり中止になりました。そこからもう一度企画をたて直しました。
- それから4年ですね。ベルギー人作家とパートナーが現地で全ての交渉と準備をしてくれて、ブリュッセルのイックル地区のイベント施設を提供してもらうことになり、イックル地区の文化事業として開催することが出来ました。また、在ベルギー日本大使館の後援もいただき、展覧会の格付けと観客動員に大きな役割を果たしていただけたと思います。ありがたいことでした。
入場者も多かったという事ですが
- 会場はもともとは教会の建物で、前が教会だったのですが、その一角にポスターが張られていたり、タウン誌に展覧会の紹介記事が掲載されたり、ベルギー日本大使館のFBでも三上大使の来場した様子と合わせ展覧会を紹介して頂きました。その結果、ベルニサージュには約300人のお客様にご来場頂き、賑やかな会になりました。作品を購入頂いたり、いろいろ現地の方々と交流することもでき素晴らしい経験をすることが出来ました。
- 会期は6月7日から30日で出品作家は20名。8名の作家がブリュッセル入りしました。
- 会期中、約1000名の皆様にご来場頂きました。熱心な方が多く、時間をかけて鑑賞して戴けたのと同時に、作品について説明を求められることも多かったです。また、マーケットに買い物に来たついでに入場し、作品を買って下さる方もいました。オリジナル作品を壁に飾る習慣があり、これを暖炉に上にとか子供部屋に飾るとか、目的が明確で購入されているようでした。美術に対する接し方が日本とは大きく違うことを痛感しました。
これからも海外での展覧会は企画するのですか
- 汎美術協会としての目的である汎美の作家を海外に紹介していく、現地の作家との交流、現地の方々と交流もでき、大成功だったと思っています。汎美として、民間の文化交流に貢献できたのは素晴らしいことだと思っています。
- 現地に行った作家も大きな成功体験になっています。それを周りの仲間に語っているので次は行きたいという作家もいます。私も今回経験して、井の中の蛙だったなと思いました。こういう機会を汎美の仲間にもっと経験して世界を知って欲しいと思います。
- 今回わずかながらの経験知ができたので、この経験を活かし、今後もこのような海外活動、海外展を開催していきたいですね。
―今後の展望について、教えてください。
- 他の公募団体も抱えている問題かと思いますが、会員の高齢化と若い作家の減少、それに伴い公募団体は縮小傾向が見られます。
- これから汎美術協会をどのように継続していくのか、次の世代に残していくのかということは常に考えています。ユニークで面白い活動をしていなかければ、参加者は増えませんから、積極的にいろいろな活動をして、「ここは面白いところだな、参加したいな」と思ってもらう、そのための改革をしていきたいと思っています。
コラム
汎美ベルギー展について、青染レイコさんに話を伺った
- (青染)出品された作品をまとめて梱包し、展示日にあわせて渡航する時に持参しました。現地に滞在していたパトリックとともみさんのに協力していただきながら展示、運営した手作りの展覧会でした。会場はブリュッセルのUccleという町にある公共施設で、階上に牧師さんが住んでいらっしゃる素敵な建物です。
バルギーブリュッセル「イックル」地区の文化施設 会場外観
- (青染)私は会期中もずうっと滞在してほぼ毎日会場入りしていたのですが、ほんとうにたくさんの皆様が展覧会を観に来てくださり、中には毎日通ってくださった熱心な人もいらっしゃいました。
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- 自分の作品について話し、感想を伺う機会も多く、日本では出来ない貴重な経験でした。ご自宅に飾りたいなどといって作品を購入してくださる方も多く、ブリュッセルではアートが生活に根付いていることを知りました。こういったことを自分の目で見て肌で感じられたことが、今回とても素晴らしくよい経験になりました。
- また、今回のベルギー展をきっかけに、もっと作品を売ることに力を入れてみようと考えるようになりました。販売を目的に作品制作するわけではありませんが、作家として作品を買っていただけるということは大切なことだと思います。
青染レイコ先生
「brussel」青染レイコ
2024汎美秋季展に出品した作品「brussel」
- 「タイトルのBrusselは最後のsが抜けています。『みんなでBrusselsのsを探しに出かけていく』というテーマの作品です。後ろのアクリル画には、汎美ベルギー展で訪れた場所を散りばめています」(青染レイコさん)
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- 汎美は自由な団体で、「誰がえらい」とか、そういったものはないし、作品の優劣もありません。いろいろやっている面白い会なので、もっと活動を盛り上げていきたいですね。今回ベルギーでの経験は私たちの財産にもなったので、これからも国内外で文化交流を続けていければ良いなと思っています。
(文・構成=村串沙夜子)
ベルギー展ポスター 会の創設当時の写真を使用
会場にベルギー展を紹介するスペース
秋季展会場にはモビール、キルト、壁一面の大作など多彩なジャンルが並ぶ
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