(左)橋本義隆 《あの響き》 第102回日本水彩展 内閣総理大臣賞
(右)田代久美子 《遠い想い出》 第102回日本水彩展 文部科学大臣賞
1913年(大正2年)、石井柏亭など当時有力な水彩画家60余名が結集し、水彩画専門の会として設立。国内で最も長い歴史をもつ絵画団体として、多くの作家を輩出してきている。100年を超えてなお活発な活動の内容や、今後の展開について、同会理事長の真壁輝男に話を聞いた。
日本を代表する水彩画団体として
幕末から明治の初めにかけて、西洋からやってきた水彩画。もともと日本画や書など、紙と水を使って表現してきた日本人の美意識や体質に適った絵画技法として浸透し、今では日本の文化の一つともいえるほどになりました。
2012年(平成24年)に創立100周年を迎えた日本水彩画会は、水彩画団体で国内唯一の公益社団法人として、先人たちが学び、発展させてきた水彩画の水準をより高め、さらなる振興、継承を目指します。
具体的には、年に一度の全国公募の「日本水彩展」とその巡回展を軸として、作品研究会、写生研究会などを開催。さらに全国53支部でも個別に支部展や研究会を開催。会員の裾野の広さ、層の深さを強みとしながら、会員・一般を交えた活発な活動を展開しています。
(左)川本ひろ子 《冬の朝》 第102回日本水彩展 石井柏亭賞
(右)佐久本ゆかり 《光と影》 第102回日本水彩展 丸山晩霞賞
水彩画ならではの魅力を次代へ残したい
私自身、東京オリンピックが終わって程無い頃、日本水彩展を見たことがきっかけで、本格的な絵の道に足を踏み入れました。小山良修、石井鶴三など、そうそうたる先生方から受けた影響や教えは今でも生きていて、水彩という技法には、格別な思いがあります。
色を重ねていく油彩とは違う軽やかさがあり、紙の質や水加減で微妙に変化する、奥深い世界。昔からある水彩絵具は消しにくい、やり直しがきかないという制約がありますが、一気呵成の真剣勝負だからこそ、表現できる厳しさと生気があり、それが水彩画の、ゆるぎない醍醐味だと思っています。
他のさまざまな芸術表現と同じく、水彩画の技法も年々進化していますが、紙と水という基本は同じ。新しいものを柔軟に受け入れながら、伝統的な技法も大切にする水彩画文化を後世に継承し、社会に貢献していくことが、当会の大きな使命であり、抱負です。
林米子 《扉》 第102回日本水彩展 会友優秀賞
中塚勝 《大地》 第102回日本水彩展 日本水彩画会賞
幅広い表現、型破りな新しさに期待
当会の作品傾向について、水彩のみを用いたアカデミックな具象表現が中心と思われがちなようですが、実際には決してそのようなことはありません。水彩の特質を生かした絵画表現を会の基本理念としながら、コラージュ、パステルなどの併用も可としていますし、抽象表現も増えてきました。またユーモアやウイットのきいたものやシュールなものから、アニメなどのサブカルチャー分野に至るまで、画風もコンセプトも、より個性的で幅広い作風を受け入れる方向に進んでいます。
「日本水彩展」は、今年度で103回目。一般応募の作品の水準は近年とみに向上しており、年齢を問わない新たな才能の出現が、今回も期待されます。
描く人の想いや感性が反映され表現、人の心を打つ表現、型破りな新しい表現が、若い方からも、熟年の方からも、たくさん出てきてほしいと思います。
(左上)宗廣恭子 《カフェテラス》 (右上)藤村喜美子 《精霊》
(左下)伊藤博子 《石見の神楽》 (右下)本橋泰子 《追憶の時間》
すべて 第102回日本水彩展 会員奨励賞
(左)松林重宗 《源泉湯槽》 第102回日本水彩展 東京都知事賞
(右)鳥巣啓三 《風刻》 第102回日本水彩展 損保ジャパン美術財団奨励賞
(取材・構成=合田真子)
(左)真壁輝男 《風》 第101回日本水彩展 2013年
(右)真壁輝男 《野火》 第95周年記念日本水彩展 2007年
真壁輝男[まかべてるお]
1935年(昭和10年)山梨県生まれ。1969年(昭和44年)日本水彩画会研究所入所、翌年日本水彩画展初出品(以後連続)。会員、評議員、湘南支部長などを経て、2002年(平成14年)同会常務理事に、2008年(平成20年)同会理事長に就任。作品集に『画業35年 真壁輝男画集』(2005年、生活の友社)。
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