現代美術家協会に所属する若手の作家のグループ展「2015 AXIS」より
2014年に70周年を迎えた現代美術家協会。同協会が運営する「現展」は、東京での本展以外にも関連グループ展や所属作家の個展が各地で開かれ、作家同士の交流も盛んだ。若手作家のグループ展「AXIS」を企画する現展研究部長の渡辺泰史に、会場で話を聞いた。
71回展からの新しい試み
現展は70回という大きな節目を終えましたが、次の71回展で失速しないためにも二つの新しい試みを準備しています。
ひとつは巡回展の追加。これまでは東京、大阪、名古屋の三ヶ所だったのですが、もう1会場、現展の移動展を加えることになりました。開催地は各支部の持ち回りとなり、第1回は東北展を盛岡で、その次は北陸展を予定しています。
また71回展から、一般の人を対象にウェブ上で予備審査をすることになりました。公募展に出品するのは、初めての人には大変なことに感じられるかもしれません。作品をつくり、送って、出品料を払って、もし落ちたら……。でも予備審査のために作品画像を送るのはずっと簡単です。特にいまはデジタルで制作する作家も増えています。彼らにとっては、出力の必要もなく、パソコンのなかで応募が完結するのです。
予備審査の段階で入選内定をお伝えし、最終的には作品を送ってもらっての判断になります。どれだけ入りやすい入口をつくれるか、実験的に始めていきます。
話を聞いた渡辺泰史(左)と、「2015 AXIS」を共同で企画する山本淑子(現展運営委員)
先輩たちにあこがれて
どの公募団体も、新しい人、とくに若い作家をいかに呼び込むかは課題になっているはずです。なかには、ある年齢以下は出品料を減額するなどの特典を設けているところもあるようです。しかし、自分が現展に入った20代後半のことを振り返っても、何かの特典に惹かれてではなく、現展の中堅の先輩たちの活動にあこがれ、ああいうふうになりたいと思って決めたものです。当時の先輩たちは上野での公募展以外にも、銀座のギャラリーなどでグループ展をしていました。そういう中に入りたいな、と。
自分が最初に個展を開いたときも、それら先輩たちに会場選び、展示の方法などを相談してドキドキしながら開いたものです。すると、まだ駆け出しだった自分の個展に、役員たちが大挙して見に来てくれたんですね。作品はさんざんこきおろされましたけれど(笑)、最後に「これがマシだね」と買っていってくれたんです。ふつう、逆ですよね。目上の作家の作品を、後輩が買うものだと思っていたんです。私も現展の先輩たちにならって、後輩の個展に積極的に行きますし、気になった作品は買うようにしています。そういう伝統が現展には息づいています。
地方の若手に声をかける
若手作家のグループ展「AXIS」は、名前の通り、現展の活動の軸になる人が出るようにという願いを込めて2002年から毎年開いています。最初に立ち上げたとき、僕は長野で活動し、同年代の山本さんが岩手で活動されていた。現展の集まりで初めてお会いしたときに、地方で一人で作品を制作するのは大変だから、集まって何かやろうとグループ展を始めたんです。精神的な部分もそうですが、会場に常駐することや搬入の手間も、分担すればなんとかなるものです。
場所は銀座と決めていました。経歴に書くための個展だったら、知り合いの喫茶店の壁を借りても事足りる。でも、それでは自己満足でしかなくて、自分の知らない美術関係者やコレクターに出会うことができない。作家には「対外試合」が必要なのです。
その後、「AXIS」を続けるなかで、自分たちよりも若手に声をかけるようになり、私と山本さんはお世話焼きに立場を変えました。こうやって地方で苦労して活動するメンバーをフォローしていったら、10年後にはまた現展も変わってくるのじゃないかな、と期待しています。
公募団体のなかで活動を長く続けていくと、作家として描くことはもちろん、プロデューサーとして展覧会を企画してつくる仕事も発生してきます。そのときは、「会場」こそが自分の作品ともいえます。声を掛けた若い作家が売れて評価されると、自分も嬉しい。こういう経験は、公募団体に属さなければ得られなかったものですね。
銀座アートスペース「羅針盤」で開かれた「2015 AXIS」会場にて。自作を前に。根石千代さん(左)、竹内功さん(右)
(左) 羽下 昌方 《創造発展の原理と無限性》 工芸 第70回記念現展 現展賞
(右) 中畑 勝美 《刻2014 ピエロの想い》 絵画 第70回記念現展 損保ジャパン美術財団賞
(左) 荒井 喜好 《地球の上には朝が来る》 絵画 第70回記念現展 第70回記念展賞
(右) 荒川 さち子 《Garden》 絵画 第70回記念現展 第70回記念展賞
(左) 及川 秋星 《宿命》 絵画 第70回記念現展 第70回記念展賞
(右) 松永 龍山 《螺鈿文葡萄文手刳角鉢》 工芸 第70回記念現展 第70回記念展賞
夏目 勝 《幻想》 写真 第70回記念現展 第70回記念展賞
(取材・構成=竹見洋一郎)
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