矢萩武三志《二人の刻(とき)》キャンバス、油絵の具、F100
1976年からスタートし、今年、40回の節目を迎える公募展・新芸術展。「新しい芸術」を常に志向し、アートの枠を拡げる公募団体の取り組みを取材した。
温かな交流の場
公募展・新芸術展を主催する新芸術協会の主旨には、「具象、非具象を問わず、真の新しい表現と価値をめざす」という言葉とともに、「独創的な個性の発掘をめざす」との文言が並ぶ。
描きたい意欲をもつ人に対して作品の発表の機会となることは、美術公募団体の大きな役割だ。「独創的な個性」はどのように発掘されるのだろうか。
第39回新芸術展で文部科学大臣賞を受賞した安積紀夫は、通信教育で絵を学んできたという。その後、会に入って22年。個展会場に団体の理事が訪れ、声を掛けられたのがきっかけだった。以来、毎年作品を新芸術展に発表してきた。
「新芸術協会は家庭的な温かさが魅力。会の皆に励まされながらここまでこれました」と安積は語る。
自身が絵を描いていくなかで、新芸術協会の人と人のつながりが支えになったという声は多い。
芸術を生み出すには、持続的な取り組みが必要になる。安積のような、時間とともに作品世界を深めてきた描き手の個性は、志を同じくする仲間との交流のなかで育まれた一面もあるのかもしれない。
第39回新芸術展で文部科学大臣賞を受賞した安積。油絵を素材に自分自身を見つめる作品を多く手がける。
第39回文部科学大臣賞受賞、安積紀夫《老人と終の棲家》キャンバス、油絵の具、F130
新しい表現分野
新芸術協会の掲げる「真の新しい表現と価値」、「新芸術」という言葉について、事務局の加藤陽夫は「言葉は同じでも、時代ごとにその意味は変化しているはず」だと指摘する。
新芸術展では近年、写真やCG作品といった新たなカテゴリーを設けて、多様な作品を募集するようになった。
「若い人たちが入ってこれる受け皿が必要だと思います。次世代のアートの担い手も、きちんとサポートしていける体勢をつくって、50回展に向かっていきます」
新しいカテゴリーを設置することには、古い会員からの反対の声も一部にはあるという。
「ただ、分野の違うものに刺激されてこそ、旧来の芸術分野も更新される。その逆に、デジタル表現の作家もアナログ作品に触発されて作品が変わる、ということを期待しています。さまざまな分野の作り手が一緒に集まる公募展の醍醐味がそこにはあります」
新芸術協会では、「新しい芸術」という日々更新される問いを、一緒に考え、これまでにない表現や価値を目指してアートの枠を拡げる仲間を募集している。
第39回新芸術協会新人賞 中島浩幸《Garden》CG、B0
事務局の加藤陽夫に話を聞いた
加藤陽夫《“草想”蒼い月の下で》キャンバス、岩絵具、変60
第39回新芸術協会新人賞 岡元宏喜《舞》F100
(取材・構成=竹見洋一郎)
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