第75回記念水彩連盟展、会場の様子
1940年に8人で結成された水彩連盟は、今年第75回記念展を迎え、水彩画を対象にした主要な公募団体としての地位を確立している。その特徴は、幅広い水彩表現を挑戦し続けること。代表の忠隈宏子に、水彩連盟のこれまでの歩みを振り返りつつ語ってもらった。
現代アートとの共存
水彩画と聞いて一般の方が思い浮かべるのは、サラッと描かれた風景画で、旅先のスケッチの延長にあるようなジャンルかもしれません。そういうイメージを持つ人が水彩連盟展の会場に入ったら、きっととても驚かれるでしょうね。目にする作品が水彩画だとは、にわかには信じられないはずです。
水彩連盟の考える水彩画は、「水溶性絵具を用いる」という最小限のルールだけを持っていて、ガッシュもアクリルもよいし、コラージュでもよい。強いていえば、油絵具ではない手段でつくられたもの。厳密なジャンルの境界はあいまいです。描く人の意識の持ち方次第、と言ってもいいかもしれない。
水彩画という枠で作品を募る公募団体には、私たちの他に、日本水彩画会と水彩人があります。どちらも友好団体ですが、水彩についての考え方は、私たちよりもこだわっています。たとえば絵具や紙の種類、サイズなど……。
その中で、水彩連盟がなぜこれほど多彩な表現を認め、追求しているのかというと、現代アートに取り組んでいるという自覚があるからです。いまでも海外の水彩画の団体の中には、伝統的な水彩画や「部屋に飾る小品」としての水彩画のイメージが定着しています。しかし私たちは水彩を使って「現代の独自性ある表現」をしたいと考えています。そこが大きな違いです。
これは個人的な意見ですが、水で溶くという感覚には、日本人の精神性にも通底する、心地よさがあるように思います。その心地よさは、広い意味での水彩画に共通して現れているはずです。
多様な表現の水彩画が並ぶ会場
水彩連盟賞 石垣渉《轍I》
文部科学大臣賞 平川二三男《廃墟(軍艦島)》
東京都知事賞 伊藤郁《NEXT》
損保ジャパン日本興亜美術財団賞 片山文 《ふることぶみ2016》
ふたつの節目
これまでの歩み、とくに自分が代表を務めるようになってからの水彩連盟の歩みのなかで、印象に残るふたつのことがありました。
ひとつは会場を上野の東京都美術館から六本木の国立新美術館に移したときのこと。もうひとつは5年前の震災のときのことです。
平成19(2007)年の第66回水彩連盟展から、会場を国立新美術館に移すことになりました。東京都美術館が工事の長期休館に入るためリニューアル再開を待つか、ちょうど新しくできた国立新美術館に移るかを決断しなければなりませんでした。
同人にアンケートをとったところ、意見は半々。当時の委員と相談して、移ることに決めました。私たちは新しい表現を志向していたから、新しい場所がふさわしいと感じました。もちろん上野の趣のある建物を懐かしむ声も多かったですし、なにより上野公園の立派なサクラを見られなくなるのはつらい、と。でも六本木に来てもう10年近く、当時は小さかった国立新美術館のサクラもずいぶん大きくなりました。
国立新美術館の前で、代表の忠隈宏子
水彩画の魅力を伝えるために
5年前、東日本大震災が起きたとき、私たちはちょうど第70回記念展の準備を進めているところでした。ほとんど開催間際に、あの地震が起きました。
東北の仲間たちは、作品を発表することがとても困難になりました。出したいという意欲はあっても、交通網が機能しなくなっていて搬入する術がない。図録を印刷するための紙を確保できるかも不安でした。
世間に自粛の空気が広がっていくなか、展覧会自体を開催するかどうか、決めるときがやってきました。私たちの答えは「できるところまで、やろう」でした。
私たちには、絵を見せることしかできない。私たちのできることを全力でやろう。
たくさんの人の協力を得て、展覧会はなんとか開催でき、第70回記念展の図録も、東北の会員の作品は以前の作品図版を代わりに入れるなどして形にしました。あのとき歩みを止めずにすんだことは本当によかったと思います。
いま水彩連盟は、ほかの多くの公募団体がそうであるように、会員の高年齢化という課題を抱えています。
若い人たちに水彩画の魅力をどう伝えていけるかは、難しい問題です。でも若い人の嗜好にすり寄っていくのではなく、私たちがつくり続ける作品それ自体の力によって、認めてもらえるようでありたい。
もともと、軽くみられがちなジャンルだった水彩画の価値観を変えたいという一心で続けてきた団体です。大胆なもの、力強いもの、そして繊細で、たおやか。水彩表現の多彩さに触れて感動してもらうためにも、展覧会をたくさんの人に見に来ていただきたいと思います。
第75回記念水彩連盟展の画集。表紙。
毎年各地で開かれる好評のスケッチ会の様子(2015年は成田で開催)。
(取材・構成=竹見洋一郎)
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