(左)佐藤浩代《祈り》第94回朱葉会展文部科学大臣賞
(右)鈴木敏子《希求》第94回朱葉会展東京都知事賞
日本初の女性洋画団体である、朱葉会。1918 (大正7) 年の結成からまもなく1世紀に至ろうとする今日も、女性洋画家の育成と登竜門の場として作品を発表し続けている。6月29日(水)より東京都美術館で始まる「第95回記念朱葉会展」を前に、理事長・村山和子、副理事長/事務所担当・坂田都の両氏に話を聞いた。
村山 和子[むらやま かずこ]
昭和19(1944)年、徳島県生まれ。昭和40(1965)年、朱葉会初入選。昭和50(1975)年、朱葉会会員推挙。
朱葉会展東京都知事賞、文部大臣賞など受賞多数。現在、朱葉会理事長。
坂田 都[さかた みやこ]
昭和23(1948)年、長野県生まれ。昭和50(1975)年、朱葉会会員推挙。
朱葉会展東京都知事賞、文部大臣奨励賞、損保ジャパン美術財団奨励賞など受賞多数。現在、朱葉会副理事長 兼 事務所担当。
流派や系統にとらわれない制作を
- ——朱葉会展準備中のお忙しいところお邪魔いたします。まずは朱葉会の特徴や魅力を、お聞かせ下さい。
-
- 村山理事長(以下、村山):
- 第一の特徴は、やはりその長い歴史といえるでしょう。女性が展覧会を開くだけでも珍しがられた時代に、女性作家の技術向上、そして制作発表の場として旗揚げされ、大正、昭和、平成と、95年にわたって多くの才能を発掘してきました。
-
- 坂田副理事長/事務所担当(以下、坂田):
- 作風の多様性も、特徴の一つにあげられると思います。会の草創期から、流派や系統ではなく、自身の追求するテーマに向かって頑張り、いい絵を描いている作家を取り上げていきたいという目的は、一貫しています。
-
- 村 山:
- そしてもちろん、女性作家の団体であることも、大きな特徴です。現在は会の誕生した時代に比べ、女性を取り巻く社会環境は大きく向上しています。でもだからこそ、女性だけの発表の場というのは貴重だと思います。女性だからこそわかる、女性ならではの魅力ある作品を、しっかりと受け止め、紹介していけたらと思っています。
1918 (大正7) 年10 月、朱葉会結成時の新聞記事。6名の設立委員は、小笠原貞子、津軽照子、尚百子、津田敏子、小寺菊子、そして与謝野晶子(左下)。
与謝野は歌人として名を成しながら、洋画も一時、本格的に制作していた。朱葉会の命名も与謝野によるもの。『朱葉会小史』(1990年)より。
結成の翌年、大正8(1919)年に日本橋三越で開かれた、第1回朱葉会展の記事。『朱葉会小史』(1990年)より。
日常を作品に昇華させる、女性の底力
- ——女性作家ならではの魅力とは、どんなものだと思われますか。
-
- 村 山:
- 現代は男女平等と言われていますが、むしろ「女性のほうが頑張っている、力がある」と認めざるを得ない状況ではないでしょうか。というのも、日常の家庭も仕事もこなし、その上で絵を描いていけるバイタリティーは、女性の方が高いはずだからです。
-
- 坂 田:
- 女性は、家庭などのめまぐるしい日常に身を置きつつ、むしろそこからエネルギーを吸収して作品に昇華させる力を持っている人が多いと感じます。
-
- 村 山:
- 朱葉会設立者の一人である与謝野晶子さんも、洋画家や歌人としての活動のほか、女性運動まで参加しながら、家庭では11人の子を育てていますしね。
-
- 坂 田:
- もちろん1世紀近くも前のことですから、まったく同じことが今に当てはめられるわけではないけれど、朱葉会のベースとなる考え方は、設立当初の先生方から代々の先生方、そして現在の会員たちのなかに、脈々と継承、共有されてきていると思います。
-
- 村 山:
- 家族や仕事や、病に苦しむ日もあったりするけれど、いろいろなものを抱え、乗り越えていく中で描いた絵は、やはり強いものがある。朱葉会の作品からは、そんな底力を感じていただけるのではないかと思います。
(左)早川清美《fusion》第94回朱葉会展東京都議会議長賞
(右)福嶋親《時を経て》第94回朱葉会展損保ジャパン日本興亜美術財団奨励賞
高い志を持つ作品を選びたい
- ——審査にはいつも、どんなことを心がけておられますか。
-
- 坂 田:
- 年に1回の公募ということで、みなさんがそれぞれに1 年を通して勉強した成果を、しっかりと評価したい思いがあります。審査で見ているのは、制作にかけた時間の長短より、してきた勉強の過程や成果が伝わるかどうか。あとはやはり、お金を払って見に来ていただく展覧会ですので、その人ならではの個性や高い志が、作品から感じられるかどうか。そういったことに注意しながら選んでいます。
-
- 村 山:
- 特に地方で制作している方にとっては、東京都美術館に出すことや、そこでの評価は、大きな励みになるようです。
-
- 坂 田:
- 制作への取り組み自体は個人的なものですが、制作的なステップアップのためには、多くの人に見ていただくことは非常に効果的ですし、日頃の地道な努力の区切りにもなりますよね。
今年6月21日に行われた、第95回記念展の公募審査風景。多数の候補作品を一点ずつ厳正に見てゆく。
設立当初のエネルギーを継承していく
- ——出品者は、やはりプロを目指して頑張っている方が多いのですか。
-
- 坂 田:
- そうですね。そのため公募展のほかにも、勉強会を定期的に開催するなどの活動をしています。
-
- ——朱葉会は、会員の年齢層も幅広いそうですね。
-
- 村 山:
- はい、下は30歳代から、上は90歳代まで。毎年がんばって出品してくださるので、審査する側としても励みになっています。
-
- 坂 田:
- 講評会や勉強会で集まると、年齢の差はまったく関係なく、絵の話で盛り上がります。同じ目的を持った仲間同士、作品を向上させるための勉強ができる場所を一つ持っていることは、自分が制作を続けていくうえでの支えになりますね。
昨年(2015)第94回朱葉会展会場で行われた講評会で、講評を熱心に聞き入る参加者たち。
今年(2016)4月に行われた勉強会。朱葉会ホームページより。
少人数ならではの、きめ細やかな関わり
- 村 山:
- 初出品から知っていて、それこそ何十年も見てきている方も、たくさんいます。そんななか、「あら、今年のこの方、びっくりするほど飛躍したわね!」という出品作品があると、嬉しくなります。教えられる側だけでなく、教えるこちらも、励みになっています。
-
- 坂 田:
- 決して大きい会ではないので、その分、目が行き届かせられることも、よいところだと思います。みなさんの作品一点一点を、よく観て、じっくりアドバイスさせていただく。これは朱葉会の設立当時からの姿勢で、これからも崩さずに続けていきたいと思います。
(左)神田裕子《枇杷》第94回朱葉会展会員賞
(右)小野田恭子《居》第94回朱葉会展朱葉会賞
制作の背中を押されるような場に
- ——最後に、あらためて、第95回記念展についてお願いします。
-
- 村 山:
- 終戦後などは特に、会の運営や展示会場などに苦労したときもあったと聞いています。そんな局面をいくつも乗り越え、地道な活動を積み重ねて、ついに第95回を迎えることができました。新しいものがどんどん生まれてくることもよいことですが、長い歴史のある会を、これからも続けていくことが大切なことだと考えています。
-
- 坂 田:
- 女性で絵を志す方がいらしたら、ぜひ足を運んで、展覧会を見ていただきたいですね。なかなか、生活のなかで絵を描き始めるのは難しいときもあるかもしれませんが、そこを一歩踏み出して挑戦する、背中を押されるような場になれたらいいですね。私たちも、より魅力に満ちた作品を見ていただけるよう、さらに精進を重ねていきたいと思っています。
-
- ——ありがとうございました。
(テキスト・構成=合田真子)
当サイトに掲載されている個々の情報(文字、写真、イラスト等)は編集著作権物として著作権の対象となっています。無断で複製・転載することは、法律で禁止されております。