インタビュー:朱葉会理事 村上洋子さん
村上洋子(むらかみ ようこ)
- 1959年 東京都出身
- 1980年 朱葉会初入選
- 1991年 朱葉会会員推挙
- 文部大臣奨励賞、安田火災美術財団奨励賞、東京都知事賞など受賞
- 個展・グループ展多数
- 現在、朱葉会理事、広報担当
公募団体に関わりながら作風を展開してきた村上洋子さん。現在は朱葉会の理事として、作品を発表するだけでなく、会の運用、また毎年のポスターのデザイン制作を手掛けるなどの活躍をしています。特異な手法の作品が生まれた経緯、100周年を迎える朱葉会のあり方などを、銀座の個展会場で聞きました。
2018年冬の個展、櫟画廊(東京・銀座)にて
『おじさん』に惹かれて
- 村上さんと朱葉会との出会いは、美術系の短大で卒業制作に取り組んでいたとき、先輩から「出してみない?」と声をかけられたことでした。
- 当時から村上さんの作品のモチーフは、「おじさん」。上野のベンチで佇むおじさん、喧嘩しているおじさん、寝転がる浮浪者のおじさん、たまにおばさんも。朱葉会の作品としてふさわしいのかしらと不安を覚えつつ応募したところ、入選を果たし、以来毎年応募するようになりました。
「雷飛」第97回朱葉会展(2018年)200×200cm
墨・日本画絵具・ペン他
「雷飛」部分
- 作品に登場するおじさんは、時間とともに一つのキャラクターとしてのイメージが固まってきました。そこには舞踏の要素が関わっていると言います。
- 「土方巽、大野一雄などの舞踏が好きで、細江英公が撮った写真集を見て描いていました。初めて男性ヌードを描いたときのモデルが、研究所の先生の友達である大道芸人のギリヤーク尼ヶ崎さんでした。十数年後、電車の中吊り広告でAERAの表紙にギリヤークさんが写っていたのを見たのをきっかけに、ギリヤークさんに描かせてほしいと直談判したことも」。
「光道」2017年 第96回朱葉会展(2017年)200×200cm
墨・銅版画・日本画絵具・ペン他
「貼ればいいんじゃない?」の言葉をきっかけに
- 最初は油絵からスタートした作品制作は、より自由に、幅広い技法へと広がっていきます。ひとつのきっかけは大学で勤めていたとき、グラフィックデザインの授業を受け持つようになったこと。「イラストを教えることにもなり、作品に対する考えがより柔軟になっていきました。自分にふさわしい表現方法は無限にあると気づかされました」。
- さらに大きなきっかけは、朱葉会の先輩のひとことでした。
- 2010年頃、村上さんが最も惹かれていた技法は銅版画。しかし版の大きさには限界があり、公募団体の出品に求められる作品サイズにならないのが悩みでした。そのときに先輩に「銅版画を貼ったらいいんじゃない?」と言われ、複数の銅版画を切って大きな画面に貼り込むスタイルを試します。「審査でどんな反応だろうと心配に思っていたら、意外にも当時の理事の皆さんにも面白いと言われました。『これでいいんだ』と気持ちが楽になって、すぐに油絵の画材をぜんぶ捨てました(笑)」
「復活祭」第88回朱葉会展(2009年)146×182cm
墨・銅版画(初めて銅版画を貼付けて墨で描いた作品)
- 自由な発想と、技法の組み合わせで生まれる村上さんの作品の成立には、朱葉会の大らかな気風も一役買っていました。
- 「これが絵画教室であれば、教えてくれる先生のスタイルに引き寄せられてしまうところです。でも、朱葉会はそれぞれのよいところを伸ばすような雰囲気に溢れていました」
100周年のその先に
- 朱葉会は今年(2019年)で98回展を迎え、100周年の佳節も目前です。
- 村上さんは「100回展はゴールではなく、通過点」と認識しています。
- 「今は女性作家の存在は珍しくありませんが、会が設立された100年前には、女性が絵を描くことは珍しい、場合によっては反発もあったのでは。いまは(男性、女性とかではなく)、自分の世界をどうつくっていくか、それを自由に発表できる場としての公募展のあり方を考える時代になっていると思います」
- 現在、会員が高齢化して若い人が相対的に減っているのは、どの公募団体にも共通の悩み。朱葉会も例外ではありません。若い人にとっては、公募展にどんなメリットがあるのか見えにくい時代かもしれません。そのなかでさらに、「女性の団体」という条件を、制約ではなく、どのように強い個性に変えていけるかが問われているようです。
- しかし自身の表現を探るこれまでの歩みのなかで、いくども朱葉会に背中を押されてきた村上さんの体験は、公募団体に関わることの意義をそのまま体現しているようです。女性ならではのバイタリティ、生き生きとしたエネルギーのなかでこそ育まれる、作家の個性があるはず。村上さんの絵のなかで、縦横無尽に力強く踊るおじさんたちも、100年のその向こうにある未来にエールを送っているように思えます。
「鐘光」F50号(2018年)墨・日本画絵具・ペン他
伝統的に市松文様をモチーフにしたポスター。デザインを手掛ける村上さんは、色の変化で毎年趣向を凝らしている
第97回朱葉会展(2018年) 講評会風景
(取材・構成=竹見洋一郎)
第97回朱葉会展 受賞作品より
寺嶋 美代子「メキシコ紀行・未来の勇者」 文部科学大臣賞
田村 三枝「しめやかな ざわめき」東京都知事賞
森沢 亜希「レモン色の風Ⅲ」東京都議会議長賞
今井 麻倫子「day-dream」損保ジャパン日本興亜美術財団賞
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