組織内の順列ももちろん、会員と一般公募のあいだでも分け隔てのない展示をし、透明性の高い運営をする自由美術協会。創立80周年を迎える同団体で、新たに事務局長に就任した田中秀樹に話を聞いた。
話を聞いた事務局長の田中秀樹
参加しやすく、持続しやすい公募団体
自由美術協会のように長い歴史を持つ公募団体のなかで、伝統を引き継ぎつつ、多くの会員を束ねながら団体を運営していく事務局長の仕事とはどのようなものなのだろう。
「会の代表ではありますが、偉いわけではないんですよ」と、今年度から就任した事務局長の田中秀樹は、まずことわる。
事務局長の任期は2年。最近では2期4年間を勤める場合も出てきているという。十数人で構成される運営委員会の中心になって、展覧会やチラシ等の種々の配布物の制作をまとめるのが事務局長の主な仕事になる。
「事務局長の仕事を一言でまとめると、交流のための橋渡し役です。会員や出品者の皆さんの意識をつなぐために、さまざまなことを行ないます。」
自由美術協会の活動で、年毎の公募展の他に大きな柱となっているのが、一般出品者の作品への批評や寄稿、エッセイをまとめた雑誌『自由美術』誌だ。会員による熱のこもった評が読む人の創作意欲を刺激するこの雑誌の編集に関わることも、事務局と事務局長の仕事だ。
充実した批評論集が刊行される一方で、公募展でよく見かける出品作品をまとめた図録は、自由美術協会では出していない。記録用として、数冊を手づくりで制作するのみだ。
「公募団体の運転資金の大きい部分を占めるのが、展覧会の図録の制作なんです。図録に自作が掲載されて嬉しい、という出品者の気持ちは理解していますが、私たちはあえて図録をつくらないことによって、年会費を抑えることを選びました。年会費は団体によってまちまちですが、多いところで年間十数万円もかかります。しかし自由美術協会では、おそらく数ある団体のなかでも最も低い範囲で、5万円を切っています。絵を描くことに興味をもってくれた人が、入会後も長く続けられる仕組みになるよう、工夫しています。」
『自由美術』誌。2015年度版
第79回自由美術展(2015年)
第79回京都巡回展の会場(2015年)
第79回広島巡回展(2015年)
2016東京自由美術展の会場の様子。立体と平面が同じ空間に展示されているのが特徴
事務局長、歩く
自由美術展は関連する展覧会の数が多いことも特徴だ。
本展の自由美術展は、毎年秋に六本木の国立新美術館で開催。本展と同時開催で、新人賞展も会場内で行われる。
その巡回展が京都、名古屋、広島で開催される。また各地の支部が独自に開催する地方展がある。このうち東京展のみ位置づけが少し異なり、展覧会のための新たな作品を募る会員展となっている。
「相当な数ですね。全部回るのはとても難しい。でも、事務局長になった初年度である今年は、全部まわる覚悟でいます。東京も、東京近郊も、地方も行きます。地方が活性化してくれないと、全国的な活動でなくなってしまうのです」と田中は語る。この取材の日も、都内の自由美術関係の展覧会で画廊をまわってきたところだった。会員の個展まで含めて、歩けるかぎりの会場を巡る日々。
田中の頭には、自身が絵の世界に入った若い時分に、先輩画家につれられた研究会の様子が強く印象に残っているという。公民館や幹部のアトリエに作品を持ち寄って、長時間、喧々諤々と批評をし合っていた日々。「どうしてあんなに皆熱かったのでしょう。酒を飲んでいたからかな(笑)」
絵を描く人々のシーンは、時代とともに形を変えてきた。高齢化の波もあり、人は少なく、熱は冷めていくかのように思える。しかし、「一緒に絵をみて、話し合って、気持ちを高める」という公募団体の原初的な役割は変わらないはずだ。自由美術協会の新しい事務局長は、展示会場をひたすら巡りながら、人と会い、励まし、批評するなかで、周囲の温度を少しずつ上げていこうとしている。
(取材・構成=竹見洋一郎)
- 第80回 自由美術展 受賞作品より(2016年開催)
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- [平面部]
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伊藤雄人 《破壊と再生》 靉光賞
仲隆生 《憤》 平和賞
坂口利夫 《だまし絵》 平和賞
渡邉知平《月へ》自由美術賞
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