春陽会絵画部会員の川野美華
公募展の開催を活動の軸に、画家・版画家の育成の場として1922年に発足された「春陽会」。国内有数の歴史と伝統を誇る美術団体でありながら、体質はいたって柔軟であり懐の深さも併せ持つ。会の特色や活動について、昨年12月に新理事長に就任した西野雅子と第93回春陽展(2016年)で損保ジャパン日本興亜美術財団賞を受賞した絵画部会員の川野美華に話を聞いた。
春陽会理事長の西野雅子
●プロフィール
1951年 熊本県生まれ、女子美術短期大学造形科絵画専攻卒業。
第73・77・78回春陽展 奨励賞、2002年 会員推挙
第83回春陽展 損保ジャパン美術財団奨励賞
ベストセレクション2012
個展・グループ展 多数。
厳しさと温かさを併せ持つ、フェアで寛容な会
- ――春陽会の特長はどんなところにあるのでしょう。
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- 「私が春陽展に初出品したのは約40年前ですが、当初から春陽会は、作家にとっては自己との闘いである制作というものを非常に真摯に受け止め、厳しさと温かさの両方をもって公正に評価してくれる場でした。審査なども会員全員で行うフェアな体質と、それぞれの作風を認め合いながら協調していく“各人主義”の精神は、今日でも変わることなくしっかりと受け継がれています。
- 現代は価値観が多様化しているので、いろいろな表現があっていい。ひたむきに取り組んだ姿勢は画面から必ず伝わるので、若い人たちには自分の表現を求めて制作を深めてほしいと思いますし、その研鑽の場として春陽会を活用していただきたい。そして、会に固まるのではなく、どんどん外へ出て挑戦してほしいですね。そういう意欲ある人を、春陽会は母体として支えていく姿勢を持っている会です」
第93回春陽展の会場風景 (左)絵画部(右)版画部
100周年に向け、会の思いをつなげ、伝える
- ――新理事長就任にあたり、抱負を教えてください。
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- 「春陽展は今年で94回目を迎えます。そこで6年後の100回展に向け、今年から『第100回春陽展記念事業準備委員会』を立ち上げ春陽会の歴史が見える展覧会や100年史刊行に向けた準備に取り組みたいと考えています。“つなげる”と“伝える”をキーワードに、先人が築いてきた会の歴史やその意義を、表現活動を通して多くの人たちに伝えていく。そして私たちが連綿と受け継いできたものを次の世代につないでいくために、できることを真摯に行っていきたいと思っています」
桜井敬子《存在の景Ⅱ》絵画部 奨励賞
※以下作品画像は全て2016年第93回春陽展受賞作より
檜垣友見子《灯りの街》絵画部 奨励賞
三島かくえ《ときを紡ぐ(くつした)》絵画部 奨励賞
澁谷美求《笑う人Ⅱ》版画部 奨励賞
滝 千尋《風景》版画部 奨励賞
心を揺さぶられる絵との出会いに期待
- ――4月に開催される94回展に向け、メッセージをお願いします。
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- 「展覧会を見に行く醍醐味は、思わず足を止めてしまうような、時間を忘れて見入ってしまう作品に出会えること。いい絵とは、技術で量れるものではありません。伝えたいという思いがいろいろなところに散りばめられている絵はやはり魅力的なものですし、必死に画面に向かって制作された絵は何らかの言葉を発します。そういう絵との出会いを、毎回楽しみにしているんですよ。どんな絵が琴線に触れるかは人それぞれですから、さまざまな作品からエッセンスを吸い取りながら、楽しんでご覧いただければ嬉しいですね」
昨年12月、富山県で開催された「2016 春陽会受賞作家展」の様子。
春陽会富山研究会展も同時開催され盛況を博した。
銀座MEGUMI OGITA GALLERYで個展を開催した、春陽会会員の川野美華。
美しい色彩の中に不気味でキュートな独特の世界を創出した。
●プロフィール
1983年、大分県生まれ。別府大学文学部芸術文化学科研究生終了。
主な受賞歴に別府アジアビエンナーレ2007別府市美術館賞、2010審査員特別賞。
2011-12年 第88回春陽会奨励賞、第89回春陽会賞、会員推挙。
2014年第23回英展~記憶・創造~優秀賞(田川市美術館) など。
2015 第50回昭和会展招待出品、ほか展覧会多数。現在、別府大学文学部非常勤講師。
川野美華 《賢い乙女と愚かな乙女》損保ジャパン日本興亜美術財団賞
描きたい世界を存分に表現できる喜び
- ――今回の個展『夜行性の庭』はどのようなテーマで制作されたのですか?
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- 「西洋神話や聖書を題材に、『夜行性の庭』というオリジナルのストーリーの中に日常や現実を組み合わせた世界を表現しました。夜といっても暗闇ではなく、夜が明ける寸前のイメージ。ピンクがかった肌色は、私の中では幼児性や稚拙さの象徴です。そういう幼い柔らかな色調の中で怖いことが行われるほうが、よりグロテスクで恐ろしい感じが引き立つかなと。芋虫が帝王切開で出産したり、常識で考えたら変なことかもしれないけれど、庭の住人である生き物たちにとっては当たり前で日常のワンシーンかもしれない。そんなことをあれこれ妄想しながら描きました」
個展『夜行性の庭』展示風景<東京・銀座 MEGUMI OGITA GALLERY>
- ――川野さんにとって春陽会はどんな会ですか?
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- 「どんな作風も認めて尊重し合う、私にとってはとてもありがたい会です。私の絵はこういう作風なので、アカデミックな学校の美術教育では受け入れてもらえず、ずっと授業外にこっそり描いていました。それを、面白いんじゃない?と初めて認めてくれた大学の恩師が春陽会の会員だったことが縁で、私も2006年から春陽展に出品するようになりました。初めて会の先輩方に講評していただいた時は、恩師と同じように皆さんが受け入れて下さったことに、こういう絵でも許されるんだと感激しました。先輩方のアドバイスはとても深いです。目の前の絵一枚の話ではなく、もっと何枚も先の絵を見越した話をして下さる。だから一年後ぐらいに、あ、あの時おっしゃっていたのはこういうことだったんだと気づくこともしばしばです。春陽会は、地に足をつけて制作に取り組みたい人には適している会だと思います」
(取材・構成=杉瀬由希)
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